日立が熟練技術をAIに──暗黙知を構造化する業務プロセス設計の考え方
ノウハウを可視化し、業務の再現性を高めるシステム設計とは
2025-06-11

熟練社員の経験や勘に頼ってきた業務を、誰でも実行できる仕組みに落とし込むにはどうすればいいのでしょうか。日立製作所が生成AIを用いて「保守対応の暗黙知」を業務手順として明文化し、AIに実行させた取り組みは、属人化した業務を構造化するためのヒントに満ちています。
本コラムでは、日立の事例をもとに、「当たり前」とされてきた現場知識をシステム設計へと昇華させる方法を解説します。
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目次
【記事要約】日立、生成AIで現場の暗黙知をDX化し、保守対応を効率化
日立製作所は、熟練技術者の暗黙知を生成AIで再現し、保守対応を支援する「保守問い合わせAIエージェント」を開発・導入。マニュアルや履歴データの学習に加え、エスノグラフィー手法を用いた業務観察でプロセスを構造化し、若手でも対応可能な仕組みを実現した。対応時間を3割短縮するなどDXによる知識継承と人手不足対策のモデルとなっている。
出典:日本経済新聞「〈WithTech〉日立、熟練のコツAI再現暗黙知を構造化、対応策打ち出し」2025年6月4日付朝刊
ポイントをひとことで
属人化した業務をフローとして整理し、誰もが同じ判断をできるようにするには、技術以前に“業務の構造化”が不可欠です。このコラムが示すように、経験に基づく判断も、観察と分解を通じて再現可能なプロセスへと落とし込むことができます。特にフルスクラッチ開発では、業務の実態に即した柔軟なロジック設計が可能であり、画一的なシステムでは実現できない「現場にフィットする仕組みづくり」に大きな価値があります。ツールありきではなく、業務起点の設計こそ本質です。
熟練者の“経験則”がブラックボックスになっている現実
業務が長く続けば続くほど、「誰がやっても同じ」にはならないことが増えていきます。
とくに設備保守やクレーム対応など、一つひとつの判断に過去の経験や現場勘が求められる分野では、熟練者の引退が業務品質の低下を招くリスクにもなり得ます。
実際、日立製作所では、制御機器の不具合対応において、機器のランプの点灯や音の違いといった現象を読み取って判断を下すベテラン社員の知見が「暗黙知」として蓄積されていました。
しかし、その知見は文書化されず、若手社員には共有しづらいものでした。
暗黙知の構造化に必要な“観察”と“分解”
この課題に対し日立が採ったアプローチは、業務プロセスの徹底的な観察と分解でした。
文化人類学などで使われる「エスノグラフィー」という手法を用い、熟練社員の行動や発言を17時間にわたって記録し、どのような順序で何を判断しているかを丁寧に洗い出していったのです。
その結果、保守対応業務は次のようなプロセスに分けて整理されました。
- 機器ごとのID番号の特定
- 過去の類似事例の検索
- 部品の在庫確認
- 対応策の立案
つまり、「経験によって瞬時にこなしているように見える業務」も、ロジカルに分解すれば再現性のあるフローになるということです。
判断フローの設計でシステム化の土台を築く
これらの分解されたプロセスは、そのままAIの判断ロジックに反映されました。
ですが、生成AIがなくても、この手順設計自体は通常のシステムでも十分に再現できます。
たとえば、特定の事象が入力されたときに「どの条件を満たせば次のアクションに進むか」という判断基準を設けることで、ワークフローやルールベースのシステムとして実装することが可能です。
これは、たとえAI技術に頼らずとも、熟練者の知見をシステム化し、誰もが同じ判断を下せる仕組みが構築できることを意味しています。
属人化を超えて、仕組み化へ
属人化された業務を仕組み化するには、いきなり「システム開発」に入るのではなく、現場の業務を“ことば”で記述できるまで構造化することが不可欠です。
「ベテランがやっているから何とかなっている」業務こそ、将来のリスクと捉えるべきでしょう。
業務を見える化し、プロセスを明文化することで、システムとして再現可能な仕組みが生まれます。
それはAIに限らず、従来型の業務アプリケーションでも十分に実現可能な取り組みです。
まとめ
日立の事例は、生成AIの導入が注目される一方で、まず業務をロジカルに整理・構造化することの重要性を教えてくれます。
本質は、ツールではなく設計にあります。
「当たり前」とされてきた業務を分解し、再現性あるプロセスへと昇華することが、システム開発の第一歩になるのです。
こうした業務の構造化や判断フローの明確化に取り組む際、画一的なパッケージでは対応しきれない課題に直面することもあります。フレシット株式会社では、現場特有の業務や運用ルールを一つひとつ丁寧に整理し、貴社のビジネスに最適化されたフルスクラッチ開発を通じて、再現性のある業務プロセスの仕組み化を支援しています。システムの導入が目的ではなく、「業務の再現性を高め、属人化を超える仕組みをつくる」ことをゴールとする開発パートナーとして、ぜひ私たちにご相談ください。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。