システム開発が炎上する原因とその対処法をプロが解説
2025-06-28

システム開発をスムーズに進めるためには、要員計画・スケジュール立案・プロジェクト管理などのあらゆる事項に対し、広い視野を持ち、多方面からの配慮が欠かせません。それを実現できなければ、例えどれだけテクノロジーが進化し、高度なプログラミング言語や優れた開発ツールが揃っていたとしても、炎上は免れないでしょう。
本コラムでは、そもそもシステム開発プロジェクトの炎上とは何かという疑問に答えながら、炎上が起こる原因や防ぐためのポイント、炎上してしまった場合の対処方法などについて解説しています。
また、炎上によってプロジェクトが終了した場合の契約についてや、炎上の対処に強いシステム開発会社の見つけ方にも触れていますので、ぜひ参考になさってください。
目次
システム開発プロジェクトの炎上とは?
そもそもシステム開発プロジェクトの炎上とは、思うような進捗が実現できず、計画していた期間内でのシステム完成が困難となっている状態を指す言葉です。特に、納期が迫っているにもかかわらず、さまざまな要因によって開発プロジェクトが難航している状況を表します。
システム開発プロジェクトがいったん炎上すると、いくら予算やリソースを追加で投入しようとも、完全に解決することは難しくなってしまうのが現実です。そのため、炎上の原因や炎上を防ぐためのポイントを的確に把握し、あらかじめ対策を講じておくことが重要となります。
システム開発が炎上する原因
システム開発が炎上する原因には、主に次のようなものがあります。
- 要件定義が十分ではない
- メンバーのスキルが不足している
- 予算やスケジュールに無理がある
- 適切な進捗管理が行われていない
システム開発においては、Quality(品質)・Cost(費用)・Delivery(納期)を表す「QCD」を的確に管理することが重要といわれていますが、どの原因も「QCD」のいずれかに関わっているのがポイントです。
以下、それぞれについて順に解説します。
要件定義が十分ではない
要件定義が十分ではないということは、システム開発の目的やゴールが不明瞭な状態であるといえます。
その状態で開発を開始すれば、各メンバーが目指す完成形のイメージに齟齬が生じ、炎上は免れないでしょう。無理にそのまま進めたとしても、求められる品質と乖離したものができあがる恐れがあります。
メンバーのスキルが不足している
システム開発の遂行に不可欠なスキルやノウハウが各メンバーに不足していることも、計画通りにプロジェクトが進まない原因となります。
当然この状態では、的確な要員計画やタスク配分を行うことができず、プロジェクトが炎上するリスクは極めて高くなります。
予算やスケジュールに無理がある
各フェーズにおける作業工数の見積もりが適切でなく、当初計画した予算やスケジュールに無理がある場合も、炎上の可能性が高くなります。
大前提として、システム開発は想定通りに進まないことが珍しくありません。余裕のない予算やスケジュール計画は、トラブル発生などによってあっさり破綻してしまうのです。
適切な進捗管理が行われていない
システム開発のプロジェクトでは、要件定義から設計・開発・テスト・納品までの全フェーズにおいて、適切な進捗管理が不可欠です。
メンバーとのコミュニケーションが不足すると、管理者がタスクの遅延に気付けなかったり、進捗が芳しくない状況を見落としたりする可能性があります。こうした小さな積み重ねが、最終的にプロジェクトの炎上につながるのです。
システム開発の炎上を防ぐためのポイント
上述した原因を踏まえ、システム開発の炎上を防ぐためには、次のようなポイントを意識することが重要です。
- 綿密な要件定義
- 的確な要員計画とタスク配分
- 適切な予算管理と余裕のあるスケジュール設定
- 定期的な進捗確認と密なコミュニケーション
それぞれについて、以下で解説します。
綿密な要件定義
要件定義を十分に行うことは、炎上を防ぐための大前提といえます。
いくら優れたメンバーを揃え、適切なスケジュールを計画しても、目的やゴールが明確でない状態ではスムーズなシステム開発は決して望めないからです。関係者の擦り合わせを繰り返し行い、認識の齟齬を防ぎながら、綿密な要件定義を実現する必要があります。
的確な要員計画とタスク配分
十分なスキルを持ったメンバーを集めた上で、的確な要員計画を立てることも、システム開発の炎上を防ぐための大切なポイントです。
また、各メンバーのスキルを正確に把握し、それに見合ったタスクを配分することも重要となります。不得意なタスクを担当するメンバーが多くいたり、各メンバーの作業量が過度に偏っていたりすると、効率が大幅に低下することがあるため、注意が必要です。
適切な予算管理と余裕のあるスケジュール設定
特に長期に渡るシステム開発のプロジェクトでは、全体の予算管理が極めて重要です。綿密に管理しないと簡単に予算超過し、炎上につながってしまう恐れがあります。
また、トラブルなどを想定し、各フェーズの前後にゆとりを設けるなど、余裕のあるスケジュールを設定することも大切です。スケジュールに余裕があれば予期せぬ事態にも柔軟に対応できるため、炎上リスクを最小限に抑えることができます。
定期的な進捗確認と密なコミュニケーション
システム開発のプロジェクトでは、こまめに進捗を確認し、トラブル発生などのリスクを早めに摘み取ることも炎上の防止につながります。
そのためには、定期的な会議や打ち合わせの開催のほか、普段から各メンバーと密なコミュニケーションを図り、適切な情報共有を行っておくことが大切です。
システム開発が炎上してしまった場合の対処方法
もしもシステム開発が炎上してしまった場合、次のような手順に従って対処するのが基本です。
- 炎上要因の分析・把握
- 対処に向けたタスクの洗い出し
- タスクに合わせたスケジュール設定
- タスクの確実な実施
以下、順に解説します。
1.炎上要因の分析・把握
システム開発が炎上してしまった場合、まずはその原因を分析・把握する必要があります。
「要件定義が不十分なのか」「メンバーのスキルが不足しているのか」など、上述した原因に沿って検討することが重要です。なお、いくつかの原因が重なって相乗的に炎上を生み出しているケースもあるため、慎重に分析しましょう。
2.対処に向けたタスクの洗い出し
原因の解明後は、分析結果をもとに、対処に向けたタスクを洗い出し、優先順位を付けます。
例えば、要件定義が不十分な上、開発メンバーのスキルが不足しているといった複合要因の場合、いくら高度なスキルを持ったプログラマーを追加しても、炎上の解消は望めません。その場合は第一に、要件定義の見直しを行う必要があるでしょう。
3.タスクに合わせたスケジュール設定
炎上に対処するためのタスクを洗い出せたら、次に取り組むべきは実施スケジュールの策定です。
当然、優先順位の高いタスクから着手するように計画する必要があります。なお、炎上を防ぐためのポイントで触れた内容と同様に、各メンバーのスキルを正確に把握の上、それに見合ったタスクを配分することが重要です。
4.タスクの確実な実施
優先順位を考慮したスケジュールを設定したら、それに基づいて炎上に対処するためのタスクを確実に実施します。
通常のプロジェクト管理と同様、もしくはそれ以上に、ここでの進捗確認や状況把握は慎重かつ綿密に行うことが重要です。問題があれば速やかに方向性を修正するなど、柔軟に対応する必要があります。
炎上によってプロジェクトが終わると契約はどうなるか
システム開発で炎上が発生し、プロジェクトが終了となってしまった場合には、契約書に則った対応をする必要があります。
以下、炎上発生における契約解除のパターンや、契約書にあらかじめ記載しておくべき内容、開発ベンダー側に責任が認められた事例を紹介します。
契約解除のパターン
システム開発が炎上して継続困難となった場合、ユーザー(開発発注側)とシステム開発会社(開発請負側)の契約関係は、次のいずれかによって解除されることがほとんどです。
- 双方の合意による解除
ユーザーとシステム開発会社の双方が合意することで、契約を解除するケースです。このケースでは、一方からの強制的な解除ではなく、双方の意思が一致したものとして平和的に解除することになります。 - 債務不履行に基づく解除
「システムを納品する」という債務の不履行に基づき、ユーザーが損害賠償請求を伴う契約解除をシステム開発会社に求めるケースです。ただし、そもそもの原因がシステム開発会社に帰する事由であることが条件となります。 - 民法上の解除権に基づく解除
請負契約もしくは準委任契約に関する民法上の解除権(民法641条など)に基づいて契約が解除されるケースです。ユーザーは、システム開発会社に帰責事由がなくてもこの解除権を行使できますが、損害賠償もしくは報酬の支払いが発生することがあります。
契約書に記載しておくべき内容
プロジェクトが炎上し、やむを得ず中止せざるを得なくなった場合に備えて、あらかじめ以下の内容を契約書に明記しておくことが有効です。
なお、各項目については抽象的な表現を避け、可能な限り数値や条件などを盛り込みましょう。具体的かつ明確に記載することが極めて重要です。
- 納期遅延や予算超過など炎上の定義・条件
- 炎上が発生した際のユーザー・システム開発会社双方の対応
- ユーザー・システム開発会社双方が果たすべき責任
- 報酬の発生条件
- 契約解除となる条件
- 著作権・知的財産権など権利の所在
- 紛争が発生した場合の手段
システム開発会社側に責任が認められた事例
ユーザーとシステム開発会社の契約問題に関する一例として、契約締結前の説明義務を果たさなかったとしてシステム開発会社側に責任が認められたケースを紹介します。
このケースでは、システム開発会社からユーザーに対して情報提供が十分ではないままプロジェクトがスタートしましたが、進行するに従って双方における認識の齟齬が顕在化し、ついにはシステム開発の継続が困難となりました。
これを受けて裁判所は、システムの機能に関する企画内容、システムの開発手法、システムの開発体制などを始め、それらから想定されるリスクについてもユーザーに説明しておく義務があったとし、システム開発会社側に不法行為責任があることを認めたのです。
システム開発の炎上事例
某システム開発会社にて、大手企業からJavaによるシステム開発を受託。COBOLで書かれた既存システムを、自動生成されたJavaによってリニューアルするという案件だったため、Javaの経験者をメンバーとして揃え、プロジェクトがスタートしました。
しかしながら、蓋を開けてみると、Javaを自動生成するには、既存システムをいったん自動生成に対応した別のCOBOLに書き換える必要があることが分かりました。そのことを顧客に説明するも、システム設計やプログラミング言語に対する知識が乏しいこともあり、「Javaでの開発で間違いないはず」の一点張り。結局、折り合いが付かず、要件や作業内容について双方に齟齬が生じたまま、現メンバーでプロジェクトを進めざるを得なくなりました。
その結果、やはり当初揃えたJava経験者のみではCOBOLの書き換え作業がままならず、スケジュールが遅延しました。さらに、Javaでの開発のみを前提にスケジュールが組まれていたため、納期には到底間に合わない状況に陥り、大炎上する事態となりました。
最終的に、現場の状況や予算との兼ね合いなどを総合的に考慮し、残念ながら「撤退」を決断しました。しかしながら、撤退までに考えられる最善のスケジュールを立て、プロジェクト着地のために可能なことをすべてやり尽くしたため、それ以上の大事になることはなく炎上は鎮火し、無事撤退に漕ぎ着けた例となります。
炎上の対処に強いシステム開発会社の見つけ方
前述した通り、システム開発で炎上が発生してしまうと、いくら追加予算や追加リソースを投入しても、完全な解決は難しくなるのが現実です。そのため、予算とスケジュールに折り合いがつくのであれば、もう一度ゼロからプロジェクトをやり直す覚悟を決めるのも一案といえるでしょう。
とはいえ、「他社が諦めたプロジェクトでもお任せください」などのキャッチコピーを謳い、炎上の対処に強いことをアピールしているシステム開発会社がないわけではありません。そのような会社を探してみるとともに、もし候補となるところがあれば、炎上を解決した過去の実績について十分にヒアリングすることが重要です。
まとめ
システム開発をスムーズに進めるには、要員配置、スケジュール、コミュニケーションなど、多方面に配慮した包括的なプロジェクトマネジメントが欠かせません。本コラムで紹介した炎上の主な原因を理解し、それを未然に防ぐポイントを押さえることで、トラブルを回避しやすくなります。
それでも、実際の現場では予期せぬ問題が起こることもあります。万が一プロジェクトが炎上してしまった場合は、冷静に要因を分析し、適切な手順で対応を進めることが重要です。また、将来的なトラブルに備えて、契約内容についても十分に確認しておくことが望ましいでしょう。
フレシット株式会社では、こうした炎上リスクを未然に防ぐため、要件定義段階から現場の声を丁寧に拾い上げ、スケジュールとリソースに無理のない設計でプロジェクトを伴走支援いたします。また、炎上してしまったプロジェクトの引継ぎ実績も豊富にあり、途中からでも立て直しを図る体制を整えています。最初からの設計でも、途中からの再構築でも、お困りの際はぜひご相談ください。
監修者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田 順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。
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