病院経営の危機に学ぶ──【結果で見るDX】情報システム導入が生む“全体最適化”──部分改善から収益改善へ
DXの真価は、組織全体を最適化する仕組みにあり
2025-09-07

医療機関の経営危機が報じられる中で、病院経営者から「情報システムを活用して業務運営を全体最適化する」必要性が指摘されています。この視点は、医療分野だけでなく製造業、流通業、サービス業など多様な業界に共通するものです。これまで多くの企業は、部門単位での効率化を目的にシステムを導入してきました。しかし、結果的に収益改善や組織全体の生産性向上に結びつかないことが少なくありません。
本コラムでは、部分最適から全体最適へ進化するDX戦略の重要性を整理し、その効果や実現のための設計思想を解説します。
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目次
【記事要約】病院経営改善の鍵は「情報システムによる業務の全体最適化」
全国の病院の7割超が慢性的赤字に直面し、インフレや人手不足が経営を圧迫している。ユカリアの三沢社長は、医療の質を維持するためには「医経分離」を徹底し、経営専門家の関与とコスト意識の強化が不可欠だと指摘する。その上で、財務管理とあわせて「情報システムを活用し業務運営を全体最適化する」ことが重要と強調。DXやAIを活用した予約・問診・カルテ管理の効率化は、医療従事者の負担軽減と経営の安定化につながり、好循環を生み出すと展望している。
出典:日本経済新聞「病院支援から見た景気医療維持へデジタル投資」2025年9月1日付朝刊
ポイントをひとことで
情報システムの導入は単なる業務効率化にとどまらず、全社横断でのデータ共有や業務プロセスの標準化を通じて、組織全体を最適化する効果を持ちます。部門ごとにバラバラに導入されたシステムでは情報が分断され、意思決定や顧客対応のスピードが損なわれますが、全体最適を前提に設計された仕組みは、経営と現場をつなぎ、好循環を生み出します。DXの本質はこの「全体最適化」にあり、戦略的な視点でシステムを構築することが重要です。
部分改善がもたらす落とし穴
システム導入の第一歩として、多くの企業は部門ごとの効率化に取り組んできました。営業部門では顧客関係管理(CRM)、経理部門では会計ソフト、人事部門では勤怠管理システムなどが代表例です。これらは短期的な成果をもたらしますが、長期的には「サイロ化」という大きな壁に直面します。
サイロ化とは、部門ごとにシステムやデータが独立してしまい、横断的な連携が難しくなる状態を指します。営業が持つ顧客情報が製造部門に共有されず、需要に応じた生産計画が立てられない。経理が把握するコスト情報が現場に届かず、適切な投資判断が遅れる。こうした断絶は、部分最適の積み重ねがかえって全社のスピードと柔軟性を奪う典型例です。
全体最適化を実現する情報システムの真価
情報システムを全社的に設計し直すと、断片化したデータが一元管理され、経営と現場が同じ情報を共有できるようになります。これにより、次のような大きな効果が期待できます。
- 業務プロセスの標準化
誰が担当しても同じ流れで業務が進められ、属人化が解消されます。ミスや重複作業が減り、全体のスループットが向上します。 - 意思決定の迅速化
リアルタイムのデータをもとに経営判断が下せるため、機会損失の防止や市場変化への迅速な対応が可能になります。 - サービス品質の向上
顧客対応や出荷、アフターサービスといった現場業務がシームレスにつながることで、顧客体験そのものが改善します。 - 投資余力の創出
業務効率化で削減されたコストを新規事業や人材育成に再投資でき、企業成長のサイクルが加速します。
全体最適化は単なるシステム刷新ではなく、経営の在り方を変える仕組みそのものなのです。
設計思想に求められる「俯瞰」と「現場感」
全体最適を目指すシステム設計では、経営層の視点と現場の利便性を同時に取り込む必要があります。経営層が重視するのは、収益構造やコスト構造を可視化すること。一方、現場が重視するのは日々の操作が煩雑にならないことです。
このバランスを欠いたシステムは失敗に終わります。経営層にとって便利でも現場で使われなければ意味がなく、逆に現場で便利でも経営の意思決定に役立たなければ全体最適化には至りません。したがって、導入前に業務フロー全体を俯瞰し、どのプロセスをどのように統合すべきかを徹底的に検討することが欠かせません。
DXと全体最適化の関係
DXは単なるIT化や自動化ではなく、業務そのものを再設計し、企業価値を高める取り組みです。部分最適化では既存の仕組みにツールを当てはめるだけですが、全体最適化は経営戦略を前提にシステムを再構築することに意味があります。
例えば、製造業では工場のIoT化だけでなく、営業データやサプライチェーン全体の情報を統合することで、需要変動に即応した生産調整が可能になります。流通業では、在庫データと顧客購買データをつなぐことで、欠品や過剰在庫を抑え、利益率を改善できます。こうした具体的な成果こそ、DXの「結果で見る」価値です。
収益改善につながる好循環
全体最適化された情報システムは、企業に収益改善の好循環をもたらします。効率化によって余力が生まれ、その資源を人材育成や新規事業に投資することでさらなる成長を実現します。また、従業員の負担軽減は離職率の低下にも寄与し、優秀な人材の確保や定着につながります。顧客対応力の向上はブランド価値を高め、競争優位性の確立にも直結します。
こうした循環が一度回り始めると、企業は持続的に成長し続ける力を得ることができます。その出発点こそが、情報システムによる業務運営の全体最適化なのです。
まとめ
部分改善を目的としたシステム導入は短期的な成果をもたらしますが、全社的な生産性や収益性を高めるには限界があります。情報システムを全社的に統合し、業務を全体最適化することで、意思決定の迅速化、サービス品質の向上、コスト削減、投資余力の創出といった効果が現れます。DXの真価は、部分最適ではなく全体最適を実現し、企業全体の競争力を高めるところにあるのです。
全社最適を見据えた情報システムの導入は、既製品のパッケージでは十分に対応できないケースが少なくありません。自社の業務フローや経営戦略に合わせて一から設計することで、初めて組織全体の効率化と収益改善を両立することができます。フレシット株式会社は、フルスクラッチ開発によるオーダーメイドのシステム構築を強みとし、企業の全体最適化を実現するための伴走型の支援を行っています。経営と現場の双方に寄り添った開発を通じて、持続的な成長を支える最適な基盤をご提供します。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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