三菱商事、宇宙基地の使用権取得から考える──ISSの動線問題に学ぶ“動きやすさ”を起点としたリプレイス型システム刷新の考え方
複雑化した業務の“動線”を見直す──リプレイスを成功に導く設計思考
2025-10-07

国際宇宙ステーション(ISS)は長年の増設を経て、宇宙飛行士の移動動線が複雑化しているといわれます。その課題を踏まえ、米スターラブスペースが開発を進める新たな宇宙基地では、最初から「使いやすく、機能的」な構造が設計されています。
この構図は、企業システムの世界にもよく似ています。部門単位の機能追加や改修を繰り返した結果、操作や情報の流れが複雑化し、使いづらいシステムになっている企業は少なくありません。
本コラムでは、ISSと新宇宙基地の対比をヒントに、「動線を再設計する」という観点からシステムをリプレイスする考え方を解説します。
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目次
【記事要約】ISS後継基地「スターラブ」、使いやすさを重視した新設計──4人滞在・拡張可能で15~30年運用想定
国際宇宙ステーション(ISS)は長年の増設により構造が複雑化し、宇宙飛行士の移動動線も入り組んでいる。米スターラブスペースが開発を進める新たな宇宙基地は、こうした課題を踏まえ「より使いやすく、機能的な設計」を目指す。4人の宇宙飛行士が約6カ月間滞在できる構造で、将来的な拡張にも対応。打ち上げ後15〜30年間の運用を想定しており、ISSの後継拠点として持続的な活動環境の整備を図る計画だ。
出典:日本経済新聞「三菱商事、宇宙基地の使用権 日本企業で初出資先米社、国内拠点検討も 創薬や材料開発に」2025年10月2日付朝刊
ポイントをひとことで
システムのリプレイスは、老朽化した機能を置き換えることではなく、業務全体の「動線」を再設計する機会です。ISSが増設を重ねて複雑化したように、企業システムも後づけの積み重ねで使いづらくなります。本質的な刷新には、業務の流れを可視化し、ユーザーが迷わず動ける構造を再構築する視点が欠かせません。技術更新よりも「人の動き」を起点に設計することが、長く使えるシステムを生み出す鍵となります。
なぜシステムの“動線”は複雑化してしまうのか
企業が長年運用してきた基幹システムや業務システムは、当初の設計思想から大きく乖離しているケースが少なくありません。
「業務の変化に合わせて柔軟に対応した結果」と聞こえは良いものの、その実態は“場当たり的な増設”の繰り返しです。ISSが複数回にわたって増築を重ね、結果として宇宙飛行士が移動しづらくなった構造とよく似ています。
多くの企業では、新しい要望が出るたびに画面やデータベース、フローを追加してきました。初期段階では問題がなくても、数年経つと機能が乱立し、似たような処理が複数箇所に存在する「システムの迷路」が生まれます。
ユーザーは目的の操作を行うまでに複数画面を行き来し、情報は部門ごとに分断。結果として、業務全体のスピードが低下します。
ISSが「宇宙での暮らし」を支えるために改良を重ねたように、企業システムも「現場の困りごと」を解決しようと追加を続けてきました。
しかし、“つけ足す発想”だけでは、いつか限界を迎えます。構造自体が整理されていないままでは、どれだけ新機能を搭載しても「使いやすさ」は取り戻せません。
リプレイスとは“刷新”ではなく“再設計”である
「リプレイス」という言葉は、しばしば「古くなったシステムを新しい技術で作り直すこと」と捉えられがちです。
しかし本来の目的は、“技術の更新”ではなく“業務動線の再設計”にあります。
例えば、旧システムでは「受注→在庫確認→出荷指示」の3工程をそれぞれ別画面で処理していたとします。ユーザーが1件の注文を処理するのに複数画面を往復しなければならない状態では、どんなに画面が美しくても「動きやすいシステム」とは言えません。
リプレイスの本質は、この“流れの再設計”にあります。
つまり、「誰が、どのタイミングで、どんな目的で、何の情報を使うのか」を再定義し、最短経路で目的を達成できるように設計し直すことです。
ISSの後継基地「スターラブ」が、宇宙飛行士が動きやすいように最初から構造を見直したように、企業システムも“人の動き”を中心に再構築する必要があります。
システム刷新のゴールは「技術的な最新化」ではなく、「業務が動きやすくなること」なのです。
動線を再設計するための3つの視点
動線を再設計するリプレイスでは、「どこを」「どの順番で」「どう改善するか」という視点が欠かせません。ここでは3つの重要な視点を紹介します。
1.現状の業務動線を“見える化”する
まず必要なのは、現状の業務プロセスを可視化することです。
多くの企業では、実際にどの画面を使い、どのような順序で業務が行われているかを把握していません。
部門ヒアリングや画面遷移図、操作ログをもとに、業務の“動線マップ”を作成することで、どこに無駄な移動・重複・停滞があるかを特定できます。
ISSの動線分析と同じく、「人がどう動いているのか」をデータで把握することが第一歩です。
2.動線の“再定義”を行う
次に、理想的な動線を定義します。
「業務フローを簡略化する」だけでなく、利用者が自然に操作できる順序を設計します。
重要なのは、業務担当者が無意識に行っている動きをロジカルに整理することです。
例えば、画面の並び順を見直す、入力項目を減らす、関連データを自動表示するなど、小さな変更の積み重ねが“使いやすさ”を生み出します。
3.データと操作を“つなぐ”
業務の動線が改善されても、データが分断されていては意味がありません。
受注、在庫、顧客情報などがバラバラのシステムに存在する状態では、ユーザーが情報を探し回る動線が発生します。
データ連携やAPI統合、マスタ一元化など、情報の流れも再設計することで、“動線の断絶”を防ぐことができます。
ISSの「後づけ型」とスターラブの「設計型」──構造から最適化する発想
ISSが抱える最大の課題は、「構造が増設の積み重ねによって複雑化したこと」です。
この構造は、長年使われてきた企業システムにもそのまま当てはまります。
一方のスターラブは、最初から動線を意識した設計思想を持ち、モジュール構造によって拡張しやすく、機能を追加しても整合性が保たれるように設計されています。
企業システムにおいても、リプレイスを単なる「部品交換」と捉えるのではなく、“構造の再設計”と位置づけることが重要です。
たとえば、承認フロー、権限設計、UI配置、データベース構造──これらを個別に検討するのではなく、全体の“業務動線”の中で最適化することで、使いやすさと拡張性を両立できます。
ISSが運用を重ねる中で「動きにくさ」を抱えたように、システムも後づけでパッチを当てるほど動きにくくなります。だからこそ、リプレイス時には「既存の延命」ではなく、「全体を俯瞰して再設計する」という発想が欠かせません。
長期運用を見据えた“設計思想”という投資
スターラブは、打ち上げ後15〜30年の使用を想定しています。
これは、短期的な改善ではなく、長期運用を前提とした“設計思想”の表れです。
同様に、企業システムも「今の課題を解決すること」だけを目的にしてはなりません。
5年後、10年後の業務変化や事業拡大を見据えた拡張性が、システムの寿命を左右します。
長期的に運用されるシステムでは、仕様変更の容易さ、データ構造の柔軟性、UIのカスタマイズ性が欠かせません。
フルスクラッチ開発は、この“将来の余白”を確保する上で有効な選択肢です。
既存パッケージでは再現できない業務特性を反映し、後の機能追加にも柔軟に対応できるように設計することで、「長く使えるシステム」が実現します。
動きやすさをデザインする時代へ
これまでのシステム開発は、要件を満たすことが主目的でした。
しかし、これからの開発で重視されるのは、「人が動きやすい構造をつくること」です。
それは、単にUIを整えるだけではなく、業務の流れそのものをデザインする行為です。
ISSのように複雑化したシステムから、スターラブのようにシンプルで機能的な構造へ。
この変化の本質は、“動線を中心に設計を見直す”ことにあります。
システムのリプレイスを考えるとき、まず見直すべきは「データ構造」でも「プログラム言語」でもなく、「人がどう動いているか」です。
まとめ
ISSの複雑化は、長年にわたる“後づけの積み重ね”がもたらした結果でした。
一方、新たな宇宙基地スターラブは、使いやすさと機能性を最初から両立させるために設計されています。
この対比は、企業のシステムリプレイスにもそのまま当てはまります。
リプレイスとは、古いシステムを新しくすることではなく、業務の動線を再設計すること。
人が自然に動ける構造をデザインし、データと操作をスムーズにつなぐことこそが、真の「動きやすいシステム」の条件です。
技術の更新よりも、設計思想の刷新。
それが、これからのリプレイス型システム刷新に求められるアプローチです。 フルスクラッチ開発は、単に一からシステムを作ることではなく、「業務の動線」をゼロから再設計することに本質があります。
当社フレシット株式会社では、画面や機能の要望をそのまま形にするのではなく、まず業務全体の流れを整理し、利用者が最短で目的を達成できる構造を設計することから始めます。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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