「不自然な挙動」をどう見抜くか──企業独自の異常判定ロジックをシステムに落とし込む方法
企業特有の“正常”を定義し、最適な異常検知を実現するシステム設計
2025-11-18

クラウドサービスの普及により、社内データの閲覧・操作ログは細かく取得できるようになりました。しかし「どの行動を不自然とみなすか」は企業ごとに大きく異なります。退職予定者の急なデータダウンロード、不自然な夜間アクセス、同一ファイルへの異常なアクセス回数など、業務の特性やオペレーションを理解していないと“違和感のある挙動”は見抜けません。
本コラムでは、企業独自の「異常判定ロジック」をどのようにシステムに組み込み、どのように業務リスクを最小化していくべきかを、フルスクラッチ開発の観点から解説します。
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目次
【記事要約】転職時の営業秘密漏洩防止に必要なIT活用と企業の実務対応
企業間の転職に伴う営業秘密の持ち出しは依然多く、持ち込んだ本人だけでなく受け入れ企業も損害賠償の対象となる可能性がある。近年はDXの進展により、クラウドサービスがアクセスログや不正挙動を自動検知するため、従来見過ごされていた漏洩が可視化されやすくなった。
転職先企業は、誓約書で「秘密情報を持ち込まない」姿勢を明確にし、発覚時は利用停止・調査・処分検討・警察相談の4点を速やかに実施し記録化することが重要。
予防策としては、クラウド上のデータに異常があればリアルタイムでアラートが届く仕組みが有効で、特に退職予定者など対象を絞って運用することが実務的。モニタリングの存在を従業員に明示し、研修でログ画面を見せるなど可視化することで抑止効果が高まる。
出典:日本経済新聞「『持ち込ませない』姿勢カギ 転職時の営業秘密漏洩問題 弁護士山岡裕明氏」2025年10月27日付朝刊
ポイントをひとことで
このコラムが示す本質は、「異常検知は技術ではなく“業務理解”が起点である」という点にあります。ログを解析しアラートを出す仕組み自体は一般的ですが、現場ごとに“正常”の定義が異なる以上、汎用ツールを導入するだけでは本当に守るべきリスクに到達できません。退職予定者や特定業務の例外など、企業特有の事情をどこまでロジックに落とし込めるかが鍵を握ります。異常判定は業務フロー、権限構造、データの動きの理解があって初めて成り立つ領域であり、フルスクラッチ開発はその現実に最も適したアプローチです。
“不自然な挙動”とは何か
クラウド環境のログには、膨大なアクセス情報が蓄積されます。しかし、その中から「どこまでを正常」「どこからを異常」と判断する基準は、企業によって異なります。
例えば次のような例があります。
- 退職予定者が特定のフォルダを大量にダウンロードする
- 深夜帯に通常はアクセスしない部門が機密情報にアクセスする
- ある社員だけアクセス回数が極端に多い
- 特定の処理が異常に繰り返されている
- 通常の業務フローでは通らない操作が行われている
こうした“違和感”を検知するには、企業の業務構造、権限設計、役割分担、運用ルールを深く理解したうえで判定ロジックを設計する必要があります。汎用的なツールでは判定基準が粗く、誤検知や見逃しにつながるケースも少なくありません。
一律のアラートでは、現場が疲弊する
「すべてのダウンロードにアラートを出す」「すべてのアップロードに通知する」といった過剰なアラート運用は現場の負担を増やし、かえって重要な異常を見逃す原因になります。
大量の通知が届くと、次のような問題が発生します。
- 本当に危険な挙動の通知が埋もれる
- 担当者が“通知疲れ”を起こして判断が遅れる
- 現場が通知の優先度を理解できず、対応が形骸化する
- 責任の所在が曖昧になり、誰も判断できなくなる
「誰が・いつ・何をしたら・どの強度で通知するか」を企業ごとに最適化する必要があります。ここにフルスクラッチ開発の価値があります。
企業独自の異常判定ロジックとは
企業によって異常の定義は異なります。そのため、企業独自の運用に合わせたロジックを設計していくことが重要です。
例として、以下のようなロジックを組み込むことが可能です。
役割に応じた異常値の設定
- 営業部は顧客データの月次閲覧が多いが、開発部はほとんど閲覧しない
- 人事はアクセス権が広いが、営業事務は特定の情報のみ閲覧
このように部門ごとに“正常範囲”が違います。
退職予定者に対する特別ルール
- 退職申し出から退職日まで、アクセス状況を重点的にチェック
- 特定フォルダを対象に通知強度を上げる
- 退職予定者だけに追加のモニタリングを付与する
これらは汎用製品では細かく設定できないケースが多く、フルスクラッチの柔軟性が活きる部分です。
業務フローを踏まえた異常検知
- 在庫システムでは通常は1商品1回の変更だが、10回連続で変更するのは異常
- 会計システムでは決算日前後にアクセスが多くなるが、それ以外の時期は少ない
業務ごとの“自然な揺らぎ”を理解したロジックこそが必要です。
異常判定ロジックには、部門横断の設計が不可欠
異常を判断するためには、法務、人事、情報システム、現場部門の連携が欠かせません。
理由は次の通りです。
- 法務:リスク管理・コンプライアンスの観点
- 人事:退職予定者、権限管理の情報を掌握
- 情報システム:ログ取得・分析・通知システムの構築
- 現場:実際の業務フローから見た「正常」の定義
これらが連携しないままシステムを導入すると、「現場が実態に合わないアラートに困る」「法務が想定した条件が実装できていない」など、多くの齟齬が生まれます。
フルスクラッチ開発であれば、部門横断の要望をシステムに反映し、一貫したルールのもとでアラート運用を行えます。
リアルタイム検知の価値
異常をいち早く発見できれば、被害を最小限に抑えられます。
たとえば次のようなケースです。
- 退職予定者が即時に大量ダウンロードを開始した
- 外部から大量アクセスが発生した
- 特定ファイルに高頻度アクセスが起きた
- 深夜帯に不自然な閲覧が行われた
リアルタイム通知の仕組みがなければ、週次レポートなどで気づく頃には既に手遅れ、という可能性があります。フルスクラッチのシステムであれば、通知タイミング、通知対象者、通知手段(メール・Slack・Teamsなど)を柔軟に選べるため、運用にフィットした実装が可能です。
SaaSでは難しい“例外処理”をどう実現するか
既製のSaaSツールは基本的なログ取得・アラート機能を備えていますが、企業特有の例外処理を柔軟に追加することは難しい場合があります。
例として次のような要望があります。
- 「一般には異常だが、この部門では許容する」という例外
- 退職予定者だけ通知ルールを変更したい
- 一部の機密ファイルだけ通知方法を変えたい
- 特定期間のみ判定条件を変更したい
こうした“例外の多い世界”こそ、フルスクラッチ開発が最も力を発揮する領域です。
企業固有のルールをそのままシステムに落とし込み、業務に溶け込む監視基盤を構築できます。
“正常”の定義が曖昧なままでは、異常も判断できない
異常判定ロジックは、最終的に「正常な状態」をどれほど深く理解しているかで決まります。
正常が曖昧なら、異常はもっと曖昧になります。
だからこそ、企業固有の業務モデル、オペレーション、データ構造、権限体系を正しく読み解いたうえでロジックを設計する必要があります。
この作業は単なるログ分析ではなく、業務理解とシステム設計を掛け合わせた高度な取り組みです。
フルスクラッチ開発はこの両者を統合し、企業独自の“正常の姿”をシステムに埋め込むことができます。
まとめ
異常な挙動は企業ごとに基準が異なります。そのため、一律のアラート設計では誤検知や見逃しが生じ、監視体制が形骸化するリスクがあります。
企業固有の業務と運用に合わせて「何を正常とし、何を異常とみなすのか」を丁寧に定義し、そのロジックをシステムに反映することが重要です。
役割ごとの正常値、退職予定者の特別ルール、業務フローの理解、部門横断でのルール設計など、企業の実態に合わせた柔軟な仕組みが求められます。
フルスクラッチ開発は、こうした独自の異常判定ロジックをそのままシステムに組み込める点で、企業にとって強力な選択肢となります。
本コラムで触れたように、“不自然な挙動”を正確に捉えるには、企業固有の業務フローや権限体系を深く理解し、その上で判定ロジックを丁寧に設計していく必要があります。既存ツールでは拾いきれない現場特有の例外や、部門ごとの“正常値”の違いをそのままシステムに落とし込めるかどうかが、実効性のある監視・アラート運用を実現する鍵です。
フレシット株式会社では、業務ヒアリングと要件整理の段階から「貴社にとっての正常/異常とは何か」を明確にし、独自の判定ロジックや例外処理を反映したフルスクラッチ開発を得意としています。業務の理解から設計・開発、運用保守まで一貫して支援することで、現場に溶け込み、貴社のリスクを確実に減らす“機能するシステム”を形にします。
「既製品では本当に必要なところまで作り込めない」「自社の運用に沿った監視やアラートを実現したい」というお悩みがあれば、ぜひ一度ご相談ください。貴社の業務を深く理解したうえで、“貴社だけのシステム”を共に構築いたします。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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