システム刷新を成功させる鍵は、マスタ整備・データ移行が生む「組織の棚卸し」にある
マスタ統一とデータ移行がもたらす“業務基盤の再定義”
2025-11-29

老舗メーカー・マキタが、長年の属人化と“IT原野”と呼ばれる状態から、全社的なシステム再構築へと舵を切った背景には、「マスタ整備」と「データ移行」という地道でありながら最も本質的な作業がありました。このプロセスは、単なるシステム移行の準備ではなく、組織の役割や業務のあり方そのものを問い直す“棚卸し作業”と言えます。
多くの企業は、業務改革やシステム更新を掲げながらも、部門ごとの独自ルールや過去の運用が残ったままでは、どれほど優れたシステムを導入しても思うように効果を出せません。本コラムでは、マスタ整備・データ移行がなぜ組織の壁をなくし、共通言語を生むのか。その本質を深掘りし、フルスクラッチ開発を検討する企業が理解しておくべき重要ポイントについて解説します。
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目次
【記事要約】「中小だから」を言い訳にしない老舗メーカー情シス改革と地域コミュニティの挑戦
香川県の船舶エンジン老舗メーカー・マキタで、一般事務として入社した高山氏が、情シス不在かつセキュリティ水準の低い状態に危機感を抱き、自己学習と直談判で社内唯一のIT担当となり、約2年半でインフラ整備や基幹システム刷新を主導。部門横断の参加型プロジェクトでデータ共有文化や人材育成を進め、現在は執行役員としてゼロトラストを軸としたクラウド活用や生成AIの全社展開を推進している。さらに、四国の情シス/セキュリティ担当者コミュニティを立ち上げ、孤軍奮闘しがちな中小企業IT人材の交流と学びの場を提供し、「中小だから」を言い訳にせず変革に挑む姿勢の重要性を語るインタビュー。
出典:EnterpriseZine「「中小だから……」は言い訳 超アナログな地方中堅企業を2年半で変貌させ、四国のITをリードする存在に」2025年11月4日公開記事
ポイントをひとことで
システム刷新におけるマスタ整備とデータ移行は、単なる“前工程”ではなく、企業の業務そのものを再定義するプロセスです。多くの企業が刷新後につまずくのは、システムの出来よりも、基盤となるデータや業務定義の不統一に原因があります。本コラムが示すように、部門ごとの呼称・ルール・判断基準のズレを揃える作業は手間がかかりますが、この工程を避ければ、どれだけ優れたシステムを導入しても機能しません。システムの成功は“技術”ではなく“業務の正しさ”で決まるという本質がよく整理された内容です。
マスタ整備は“現場の実態”をあぶり出す作業である
マスタ整備を進めると、多くの企業で「実態」と「認識」が大きくズレていることが露呈します。
例えば、次のような状況は珍しくありません。
・部署ごとに品番の付け方が異なる
・同じ取引先が複数の名前で登録されている
・担当者しか知らない独自ルールがある
・使用しているステータスやカテゴリ定義が部門間でバラバラ
これは、日々の業務の中で必要に迫られ、現場が工夫しながら対応してきた結果です。しかし、長年蓄積された“ローカル最適の積み上げ”は、システム刷新のタイミングで確実に壁となります。
マスタ整備とは、この見えない歪みを浮き彫りにし、企業が本来どうあるべきかを再確認する工程です。属人化、非効率、情報の揺れ。こうした課題が一つずつ可視化されるため、企業はシステム導入と同時に「業務そのものを整える」必要性に気づいていきます。
つまり、マスタ整備は単なるデータクリーニングではなく、“組織の自己理解を深めるための棚卸し作業”そのものなのです。
部門ごとの認識差が顕在化し、議論が生まれることが価値である
マスタ整備を進めると、部門間での認識違いが次々と明らかになります。
・「この“顧客”は販売管理では別IDなんです」
・「うちの部門では“品目分類”はこう扱っている」
・「そのステータスは他部署に共有されていない」
このズレはシステム刷新の弊害ではありません。むしろ、システム刷新によって初めて表面化する“本来向き合うべき課題”です。
システム刷新とは、現場に合わせて設定を変える作業ではなく、現場と組織が「どう仕事をするべきか」を議論する時間でもあります。
部門横断で会話が生まれ、定義を揃え、ルールを明文化していくことで、初めて「共通言語」が形成されます。
共通言語が生まれると、以下のような変化が起こります。
・データの意味が部門間で一致する
・業務フローの前提が揃う
・作業の引き継ぎがスムーズになる
・データ活用の再現性が高まる
こうした“全社最適化”の文化は、マスタ整備の議論を真剣に行った企業だけが得られる成果です。
データ移行は“業務の矛盾”を突きつける重要工程
データ移行では、過去の運用の積み重ねがストレートに表面化します。
・重複データが大量にある
・同じコード体系が複数存在する
・属性の欠損が埋められない
・担当者の退職で本来の意味が不明
これは、単にデータが古いからではありません。
“組織としてのデータ設計哲学がなかった”ことが根本原因です。
データ移行は、単に旧データを新システムへ載せ替える作業ではありません。
今後の10年、20年を支える業務基盤の“初期設定”です。
新しいシステムに移行する際、「何を正しいデータとするか」「どこまでを整理し、どこから新しくするか」という議論は避けて通れません。
この段階で曖昧な判断をすると、運用後に必ずしわ寄せが生まれます。
だからこそ、データ移行は“業務の矛盾を直視する工程”であり、企業が変わるための痛みを伴うプロセスでもあります。
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パッケージでは埋められない“現場の事情”をどう扱うか
パッケージシステムは、数多くの企業で使われてきたベストプラクティスを備えています。しかし、その反面「自社の現場に100%は合わない」のが前提です。
マスタの定義やデータ構造をパッケージ側に寄せる必要があり、
・現場が持つ細かな事情
・業界固有の運用ルール
・歴史的に形成されてきた手順
などが、無視されてしまうことがあります。
その結果、次のような課題が残ります。
・結局Excel管理が残る
・パッケージに合わせるため業務が変質
・定着せず「使いにくい」と感じられる
対してフルスクラッチ開発は、“現場の本質をヒアリングしながら、業務とシステムを同時再設計できる”点が最大の強みです。
マスタ整備やデータ移行で表面化した課題を、“システムが吸収する”のではなく、“業務とシステムの両方を正しく整える”方向へ進めることができます。
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現場が参加しなければ、システム刷新は絶対に成功しない
マスタ整備・データ移行において重要なのは、情シスだけで抱え込まないことです。
現場の理解と参加なくして成功はあり得ません。
・どの項目が現場で使われているのか
・どのルールが属人化しているのか
・どのデータが業務に不可欠か
こうした情報は、現場担当者しか知りません。
現場が議論に加わることで、初めて“本当に役立つ運用ルール”を構築できます。
さらに、現場が作成に関わったマスタ・運用ルールは、導入後の定着率が圧倒的に高まります。
自分たちが作った仕組みだからこそ、責任感と当事者意識が生まれるためです。
マスタ整備とデータ移行は、企業文化すら変える力を持つ
データの意味を統一し、過去の矛盾を整理し、部門間の壁をなくす。
これらはシステム刷新の副産物ではなく、“企業文化改革の入口”でもあります。
・情報は隠すものから、共有するものへ
・属人化から、標準化へ
・経験則から、データに基づく判断へ
・“部門最適”から“全社最適”へ
こうした文化変化は、マスタ整備・データ移行を真剣に取り組んだ企業だけが得られる成果です。
システム刷新は、単に新しい仕組みに置き換えることではありません。
企業が次のステージへ進むために必要な“基礎体力づくり”です。
その中心にあるのが、マスタ整備とデータ移行という本質的な取り組みなのです。
まとめ
システム刷新におけるマスタ整備・データ移行は、単なる準備作業ではなく「組織の棚卸し」であり、企業の変革を支える土台づくりです。属人化やルールの乱立、データの揺れといった課題を浮き彫りにし、部門間の共通言語を生むことで、企業は初めて“全社最適”の状態に近づきます。システム刷新を成功させる鍵は、データとルールを正しく整えること。マスタ整備とデータ移行は、企業が未来へ向けて進むための最も重要なステップです。
マスタ整備やデータ移行は、企業が抱える本質的な課題と向き合う、極めて負荷の大きい工程です。しかし、この工程を丁寧にやり切ることで、組織は初めて“本当に使える”システムを手に入れられます。
フレシット株式会社では、この前工程こそが最も重要だと考えています。お客さまの業務の実態を深く理解し、部署ごとの前提やルールの違いを丁寧にすり合わせながら、最適なデータ構造・業務フロー・システム仕様へと落とし込んでいくことを得意としています。パッケージでは拾いきれない現場特有の運用や、長年の歴史の中で形成された複雑な業務にも向き合い、“その会社のためだけに”設計するフルスクラッチ開発を提供しています。
もし、「既存システムがフィットしない」「属人化を解消したい」「システム刷新で組織の基盤を整えたい」とお考えでしたら、ぜひ一度お問い合わせください。現場の実態を丁寧に可視化し、御社にとって最適な形でシステムを作り上げる伴走をいたします。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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