パスキー導入が広がる潮流を踏まえて──自社サービスにパスキーを実装するための構成・要件設計・リスク管理の実務ガイド
認証基盤を再設計する──安全性と利便性を両立するアプローチ
2025-12-08

金融・公共・ITサービスなど多様な業界で、パスワードに依存しない新しい認証方式「パスキー(FIDO認証)」の導入が進んでいます。本人確認の安全性を高めるだけでなく、ログイン体験の改善にもつながることから、自社サービスへの採用を検討する企業が増えています。しかし、パスキーを「導入する」と一言で言っても、実際にはシステム構成・要件設計・既存DBやAPIの見直しなど、実務的な検討事項が多岐にわたります。
本コラムでは、パスキーを自社システムへ組み込む際に押さえるべき設計ポイントを整理し、リスク管理や運用面を含めた実装プロセスを解説します。また、実装を検討されているご担当者様に参考となる関連コラムとして、「【導入事例付き】Laravel + WebAuthnで実現するFIDO認証」および「顔認証・指紋認証でログインをもっと安全に|FIDO認証導入のポイントとデモ公開」もあわせてご紹介します。
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目次
【記事要約】パスキー普及が加速、証券口座不正対策で導入企業が倍増
パスワードに依存しない認証方式「パスキー」の導入が国内で急拡大している。FIDOアライアンスは、導入済み・導入予定企業が55社に達し、前年から約2倍に増えたと発表した。証券口座の乗っ取り被害を受け、金融庁と日本証券業協会がガイドラインを改定し、多要素認証の必須化を打ち出したことが背景にある。証券会社に加え、日本郵政、JR東日本、リクルートなど多業種で採用が広がる。パスキーは端末内で認証を完結させるため情報漏洩やフィッシング詐欺に強く、生成AIによる巧妙な偽メール増加も普及を後押ししている。
出典:日本経済新聞「『パスキー』導入が倍増 証券口座乗っ取りで注目 日本郵政やJR東も採用」2025年12月6日付朝刊
ポイントをひとことで
パスキー導入は単なるログイン方式の置き換えではなく、認証基盤そのものを再設計する取り組みです。そのため、フロント・API・DB・運用フローといった複数レイヤーを横断して「自社サービス全体の構造」を把握することが不可欠です。特に既存ユーザー移行やデバイス紛失時の救済設計は、セキュリティとUXの両立を左右する難所です。フルスクラッチ開発を選ぶ理由はまさにここにあります。標準的なFIDO実装を前提にしつつ、業務の現実に即した“実装可能な設計”へ落とし込めるかが成功の分岐点になります。
パスキー導入を支える“仕組み”を理解する
パスキーは「なりすましを防ぐ強固な認証方式」として語られることが多いのですが、その効果を最大化するためには、仕組みを正しく理解する必要があります。パスキーは公開鍵暗号方式を用い、利用者のデバイス上で認証情報を管理します。サーバー側に秘密鍵を持たないため、情報漏洩リスクが大幅に低減します。
従来の「IDとパスワード」は人が入力する情報を基盤としていたため、フィッシング詐欺や総当たり攻撃に弱い構造でした。パスキーは、この“人が覚える”前提を撤廃することで、構造的に安全性を高めています。
しかし、この新しい仕組みを既存サービスに導入するには、単なるログイン画面の置き換えでは済みません。認証フローの変更、APIとサーバー処理の再設計、既存データベースとの整合性、ユーザー移行の段階設計など、多層的な検討が求められます。
こうした背景を踏まえ、次章からはパスキー導入の実務的な検討ポイントを解説します。
パスキー実装に必要な“システム構成”の視点
パスキー導入を成功させる上でまず重要になるのが、システム全体の構成です。パスキーは認証の一部であるため、既存のアプリケーションとどのように連携させるか、どの層で処理を行うかを明確にする必要があります。
パスキー認証では以下の構成要素が関わります。
- フロントエンド(ブラウザ / アプリ)
- WebAuthn API
- 認証サーバー(アプリケーションサーバー)
- ユーザー識別情報を持つデータベース
このうち、特に再設計が必要になるのはアプリケーションサーバーです。認証チャレンジの発行、鍵情報の登録・検証、ユーザーアカウントとの紐づけといったロジックを安全に実装しなければなりません。
さらに、既存システムを利用しながら段階的にパスキーへ移行する場合、「パスワード併用期間」を設けることが一般的です。そのため、旧認証と新認証の両フローが併存する構成を一時的に用意する必要があります。
このように、パスキー導入は認証方式の追加にとどまらず、システム構成全体を見直すきっかけになります。
要件設計で押さえるべき“機能”と“想定シナリオ”
パスキーを導入する際の要件設計では、「どの場面で利用するか」を明確にすることが重要です。
例えば以下のような利用シーンがあります。
- ログイン時のみ利用する
- パスワードレス化し、ログインの唯一の手段にする
- 出金・購入・承認などセキュリティが高い操作に追加認証として利用する
- 社内管理画面など限定ユーザー向けにまず先行導入する
特にBtoCサービスでは、ユーザー層やデバイス環境が多様であるため、パスキー対応の可否を見極める必要があります。iPhone・Android・Windows・macOSのいずれにも対応する必要があるため、認証方式の設計時にはサポート範囲を明確にし、動作保証するブラウザやOSのバージョン要件を定義することが欠かせません。
また、パスキー紛失時の救済フロー(アカウントリカバリー)の設計も重要です。安全性を担保しつつ、ユーザーに過度な負担をかけないバランスを取ることが求められます。
こうした実務的な観点は、以下の関連コラムでさらに詳しく解説しています。
- 【導入事例付き】Laravel + WebAuthnで実現するFIDO認証
https://freshet.co.jp/column/2640/ - 顔認証・指紋認証でログインをもっと安全に|FIDO認証導入のポイントとデモ公開
https://freshet.co.jp/column/2653/
パスキー導入時に考えるべきリスク管理と運用設計
パスキーは安全性が高いものの、運用設計を誤ると逆にユーザー体験を損なったり、運用負荷が上がったりする場合があります。特に以下の観点は必ず検討すべきです。
■ デバイス紛失・故障時の対応
パスキーはデバイスに保存されるため、紛失時のリカバリー手段を必ず用意する必要があります。
メール認証・SMS・本人確認書類のアップロードなど、サービスの性質に合わせた救済手段が求められます。
■ アカウント共有の不可
パスキーは「共有」を前提としていないため、複数人で1つのアカウントを共用している業務では運用を見直す必要があります。業務プロセスの整理が必要になるケースもあります。
■ 法規制・コンプライアンス
金融機関などでは、FIDO認証を含む多要素認証が義務化されつつあります。システム開発会社と連携し、ガイドラインに準拠した設計が求められます。
■ 既存ユーザー移行の負荷
既存ユーザーに対し、一斉移行するか、任意移行とするか、段階的移行とするかを検討しなければいけません。ユーザー属性によって最適な導入タイミングは異なります。
フルスクラッチ開発だから実現できる“理想の認証設計”
パスキー導入は、既存の認証方式にそのまま追加できるものではなく、サービス全体の構造を踏まえた設計が必要です。特にフルスクラッチ開発は、次の点で大きな優位性があります。
- 業務に合わせた認証フローを設計できる
- 既存DBやAPIの構造を柔軟に改修できる
- セキュリティ要件に合わせた固有の制御が可能
- 段階的移行を現場に合わせて設計できる
パスキーは「安全な認証を提供するためのプロトコル」ですが、どのように組み込むかはサービスの特性によって大きく変わります。フルスクラッチ開発では、こうした個別要件に応じた最適な実装を実現できます。
例えば、既存ユーザーを保持したまま認証方式だけを刷新する、業務アプリに高いセキュリティレベルを追加する、IP制限やロール管理と併用して高度な多層防御を構築するなど、多様なアプローチが可能です。
パスキー実装は“認証基盤の刷新”であり、DXの一環でもある
パスキー導入は、単なるログイン方式の変更ではありません。
認証はすべてのサービスの入口にあたり、その設計を見直すことは、サービス全体の安全性・体験・拡張性に直結します。
認証基盤を刷新するメリットは以下の通りです。
- セキュリティ事故の根本的な低減
- サポートコストの削減(パスワード再発行の激減)
- 離脱率の低下による業績改善
- マルチデバイス対応によるUX向上
- 将来的なゼロトラスト戦略への布石
こうした構造改善は、まさにDX(デジタル変革)そのものであり、認証基盤の刷新は「最も投資対効果が高い領域のひとつ」といえます。
まとめ
パスキー導入は、パスワードレス化という単なる利便性の向上にとどまらず、サービス全体の安全性とUXを高める基盤づくりでもあります。
成功のポイントは、構成・要件・運用の3つを丁寧に設計し、自社の業務やユーザー特性に適した認証フローを構築することです。
また、導入にあたり考えるべきリスク管理やユーザー移行計画を早い段階で整理することで、システム全体の負荷を抑えながら安全に移行できます。
パスキーは、今後ますます幅広い業界で採用が進む認証方式です。
自社サービスの継続的な成長を支える認証基盤を整えるためにも、どのような構成・設計が最適かを検討し、長期的な視点で取り組むことが重要です。
パスキーの導入は、単なる技術選択ではなく、事業の成長やセキュリティ戦略を左右する“基盤づくり”そのものです。だからこそ、自社の業務構造やユーザー特性を深く理解し、それに最適化された認証フローを設計できる開発パートナーが欠かせません。
「既存の仕組みでは限界を感じている」「セキュリティとUXを両立した認証基盤をつくりたい」「自社仕様に最適化したパスキー実装が必要」——そんなご相談があれば、ぜひ一度フレシットにお声がけください。現場の課題に寄り添いながら、“安全で、使いやすく、将来の拡張にも強い”認証基盤づくりをともに設計いたします。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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