システム開発をフルスクラッチで成功させるために──“要件確定の先送り”が招くリスクとプロジェクト設計の原則
手戻り・追加費用を生む“先送りリスク”を断ち切る方法
2025-12-13

システムを新しく作りたいと考えるとき、多くの企業が最初に抱える悩みが「要件が固まりきっていないまま、どこまで進めてよいのか」という問題です。特にフルスクラッチ開発では、ユーザー企業の業務構造や課題に合わせてゼロからシステムを設計していくため、要件定義の精度がプロジェクト全体の成否を大きく左右します。
本コラムでは、IT化の原理原則[3]の考え方を基に、要件確定の先送りがなぜ危険なのか、どのように回避すべきか、そしてユーザー企業が主体的にプロジェクトを成功へ導くために押さえるべきポイントを解説します。
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目次
【要約】IT化の原理原則[3]プロジェクト成功を左右する“要件確定の先送り”は厳禁である
要件定義はシステム開発全体の方向性を定める重要工程であり、この段階が曖昧なまま進行すると、後工程で重大な手戻りや追加コストが発生しやすくなります。特にユーザー企業の内部調整が不十分な状態で開発を開始すると、必要な要件が後から判明し、影響範囲が広がることでプロジェクトの難易度が一気に上昇します。要件の不確定を抱えたまま進めることは、技術的リスクだけでなく、納期・予算・品質の全てに悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、安易に前倒しで進めるのではなく、必要な合意形成を完了させる姿勢が求められます。また、発注者・受注者双方が早期に要件の曖昧さを把握し、リスク低減策を講じることがプロジェクト成功に不可欠です。
参考:独立行政法人情報処理推進機構
『超上流から攻める IT化の原理原則17ヶ条』原則原理[2]
『実務に活かす IT化の原理原則17ヶ条』原則原理[2]
「IT化の原理原則17ヶ条」が教える、IT導入を成功へ導くための基礎知識
IPAが公開する「IT化の原理原則17ヶ条」は、企業がIT導入やシステム開発を円滑に進めるための基本的な考え方を整理した指針です。ユーザー企業とシステム開発会社の視点の違い、要件定義の重要性、コミュニケーション不足が招く問題など、実務で起こりやすい課題を原理的に示している点が特長です。また、開発プロセスにおける責任や役割の明確化、投資判断の妥当性、品質確保への姿勢など、プロジェクト成功に必要な視点を包括的に提示しています。これらの原理原則を理解することで、組織が主体的にIT化を推進し、失敗しにくい体制を整えることができるようになります。
参考:独立行政法人情報処理推進機構
『超上流から攻める IT化の原理原則17ヶ条』原則原理[2]
『実務に活かす IT化の原理原則17ヶ条』原則原理[2]
ポイントをひとことで
このコラムが強調しているのは、フルスクラッチ開発における「要件確定の先送り」が、技術的な問題ではなくプロジェクト設計上の構造的リスクだという点です。曖昧な前提で開発を進めると、手戻り・追加費用・納期遅延が連鎖的に発生し、関係者全体が疲弊します。重要なのは、最初から完璧な要件を求めることではなく、要件を固めていくためのプロセスと承認ルールを明確に設計することです。ユーザー企業とシステム開発会社が共通認識を持てる環境を整えることこそ、プロジェクト成功の根幹だといえます。
要件定義がなぜ「プロジェクトの心臓部」なのか
システム開発において要件定義は単なる事前作業ではなく、プロジェクトの設計図そのものです。方向性が曖昧なまま進んでしまうと、後工程での修正が多発し、コスト・スケジュール・品質のすべてに悪影響を及ぼします。
フルスクラッチ開発は、既存パッケージを使うケースと異なり、機能や仕組みをゼロから構築していきます。つまり前提の一つがズレるだけでも、複数の設計工程に影響し、手戻りが発生します。要件確定はプロジェクト全体に波及する“核”であり、この段階での精度こそが成功を左右する理由です。
【関連記事】
要件定義が失敗する原因は?6つの失敗事例から学ぶ対策を解説
要件を先送りすると何が起こるのか
要件確定を後回しにすると、プロジェクトは必ず不安定になります。代表的な問題は以下のとおりです。
想定外の仕様追加が頻発する
ユーザー企業の内部調整が不十分だと、後になって新たな要件が発覚します。そのたびに設計変更が必要になり、開発工数は膨らみます。
影響範囲が読めず、スケジュールが崩壊する
曖昧な前提で開発を進めると、どこまでが確定範囲なのか判断が難しくなり、計画を立てても崩れやすくなります。
>>システム開発の期間の目安は? 作業工程から短縮方法までわかりやすく解説
責任の所在が不明確になり、トラブルが増える
確定していない要件が多いほど「誰が判断するのか」が曖昧になり、意思決定の遅延や認識ズレが発生します。
品質が安定しない
後から新しい要求が追加されると、テスト方針や設計思想の統一が難しくなり、品質が揺らぎます。
これらの問題は技術力とは別の次元で発生するため、「優秀なシステム開発会社に依頼すれば何とかなる」と考えるのは危険です。要件確定の先送りは構造的な問題であり、プロジェクト環境の整備が必要です。
要件が固めきれないのは“悪いこと”ではない
多くのユーザー企業が「要件が固まりきっていないのは自社の準備不足だ」と感じています。しかしこれは自然なことです。業務を深く棚卸しし、課題を構造的に整理し、将来の拡張まで考えたうえで要件を明確化する作業は簡単ではありません。
重要なのは、「固まっていない状態のまま進める」のではなく、「固めるためのプロセスを設計する」ことです。
システム開発会社と共に要件を言語化し、合意の粒度を揃えることで、曖昧さは徐々に解消されます。つまり、要件が最初から完璧である必要はなく、適切に整理しながら前に進める体制こそが重要なのです。
ユーザー企業がまず整えるべき“要件整理の準備”
要件定義を成功させるために、ユーザー企業が準備しておくと効果的なポイントがあります。
業務フローの可視化
現場の実務が複数の担当者の頭の中にしかない場合、要件の抜け漏れが発生しやすくなります。
目的・優先度の明確化
「課題をすべて解決したい」ではなく「どの課題を最優先で解消したいか」を整理することが重要です。
関係部署の巻き込み
後から関係者が追加されると、要件が大きく変わることが多くあります。
これらはすべて高額なコストを必要とするものではありませんが、効果は絶大です。
要件定義は“合意形成のプロセス”である
要件定義の本質は、ユーザー企業とシステム開発会社が互いの認識を揃え、同じ方向に向かって進めるための合意形成プロセスです。
- 機能の目的
- 実現の方法
- 前提条件
- 範囲
- 優先度
- 実施時期
これらが双方で一致して初めて、プロジェクトは安定します。
ただ要望を伝えるだけでは合意にはなりません。
システム開発会社側が“どう理解したか”を確認し、すり合わせることで初めて要件は確定します。
フルスクラッチ開発が要件確定に強い意味を持つ理由
フルスクラッチ開発では、既存の仕組みを流用できないため、前提条件の誤差がそのまま開発負荷に直結します。
そのため以下の特徴があります。
依存関係が多い
新規機能同士が相互に影響し合うため、ひとつの要件変更が複数の工程に影響します。
仕様の自由度が高い
自由度が高い反面、決めなければならないことも多くなります。
業務理解が不可欠
要件の背景にある業務課題を理解できていなければ、正しい機能設計ができません。
つまり、要件確定の精度がフルスクラッチ開発の成功確率を大きく左右します。
先送りしないための“プロジェクト設計力”とは
要件を先送りしないためには、次の3点が重要です。
明確な承認ルールの設計
誰が承認し、どこまでが確定範囲なのかを明確にすることで、判断が早くなります。
段階的な要件整理
すべてを一気に決めるのではなく、優先度をつけて分割して進めることが効果的です。
合意を可視化するドキュメントの整備
仕様書・議事録・画面イメージなど、認識を揃える資料はプロジェクトの生命線です。
これらは特別な技術ではなく、プロジェクト運営の“基本動作”です。しかし、この基本が徹底できているシステム開発会社は実は多くありません。
まとめ
要件確定の先送りは、フルスクラッチ開発において致命的なリスクを生みます。曖昧な状態で進めれば、手戻り、追加コスト、納期遅延、品質低下といった問題が連鎖し、プロジェクトは不安定になります。
しかし、要件が最初から完全である必要はありません。重要なのは、「曖昧な部分を曖昧なまま進めない」ことです。ユーザー企業とシステム開発会社が適切なプロセスを設計し、共通認識を育てながら進めることで、フルスクラッチ開発は大きな成果を生み出すプロジェクトへと変わります。 要件確定はフルスクラッチ開発の成功を左右する最重要工程であり、曖昧さを残したまま進めることは大きなリスクにつながります。
フレシット株式会社は、この要件整理のプロセスを単なる事前作業ではなく「事業の本質を言語化し、共通認識をつくるための対話」と位置づけています。業務理解に基づく丁寧なヒアリング、判断しやすい情報構造化、認識のズレを生まない合意形成の進め方など、ユーザー企業と伴走しながら要件を確実に固めることを得意としています。フルスクラッチならではの自由度を最大限に活かし、将来の拡張性まで見据えたシステムをゼロから設計したいとお考えでしたら、ぜひフレシット株式会社にご相談ください。貴社のプロジェクトを成功に導くために、責任を持って向き合います。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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