システム開発をフルスクラッチで成功させるために──要件定義は「発注者の責任」であるという現実
決める覚悟がなければ、良いシステムはできない
2026-01-12

システム開発を検討する際、「要件定義はシステム開発会社が主導してくれるもの」「専門家に任せたほうが安心」と考えていないでしょうか。しかし、その認識こそが、プロジェクト失敗の入口になることがあります。
要件定義は、システムの仕様を決める作業である以前に、「自社は何を実現したいのか」を明確にする経営・事業上の意思決定そのものです。
本コラムでは、IT化の原理原則[9]「要件定義は発注者の責任である」を軸に、事業会社がフルスクラッチ開発を成功させるために、なぜ発注者自身が要件定義に主体的に関わる必要があるのかを解説します。
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目次
【要約】IT化の原理原則[9]要件定義は発注者の責任である
要件定義とは、どのようなシステムを構築し、何を実現したいのかを明確にする工程であり、その主体と責任は発注者にあります。要件が曖昧なまま受注者に開発を依頼すると、コスト増加や納期遅延、品質低下といった問題が生じやすくなりますが、その結果責任を受注者に転嫁することはできません。要件定義は、発注者側の業務部門とIT部門が連携して進めることが基本です。発注者が自ら実施できない場合でも、受注者を支援役として活用することは可能ですが、最終的な判断と成果物に対する責任は、あくまで発注者が負うべきものです。
出典:独立行政法人情報処理推進機構
『超上流から攻める IT化の原理原則 17ヶ条』原理原則[1]
『実務に活かす IT化の原理原則 17ヶ条』原理原則[1]
「IT化の原理原則17ヶ条」が教える、IT導入を成功へ導くための基礎知識
IPAが公開する「IT化の原理原則17ヶ条」は、企業がIT導入やシステム開発を円滑に進めるための基本的な考え方を整理した指針です。ユーザー企業とシステム開発会社の視点の違い、要件定義の重要性、コミュニケーション不足が招く問題など、実務で起こりやすい課題を原理的に示している点が特長です。また、開発プロセスにおける責任や役割の明確化、投資判断の妥当性、品質確保への姿勢など、プロジェクト成功に必要な視点を包括的に提示しています。これらの原理原則を理解することで、組織が主体的にIT化を推進し、失敗しにくい体制を整えることができるようになります。
出典:独立行政法人情報処理推進機構
『超上流から攻める IT化の原理原則 17ヶ条』原理原則[1]
『実務に活かす IT化の原理原則 17ヶ条』原理原則[1]
ポイントをひとことで
要件定義を発注者の責任と捉える視点は、システム投資を「外注コスト」ではなく「経営判断」として位置づけ直す考え方につながります。何を作るかではなく、どの業務や意思決定をどう変えるのかを自ら定義しない限り、システムは事業成果に結びつきません。発注者が主体的に責任を引き受け、設計判断の軸を明確にすることで初めて、技術や仕様は有効な手段として機能し、投資対効果のあるシステム設計が可能になります。
要件定義とは「システム仕様書を書くこと」ではない
要件定義という言葉から、「画面一覧」や「機能一覧」を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、本質的な要件定義とは、「どのような業務を、どのように変えたいのか」「どんな状態を実現したいのか」を定義することです。これは、業務や事業を深く理解している発注者側でなければ決められない内容です。システム開発会社は技術や設計の専門家ではありますが、御社の事業の意思決定者ではありません。
要件定義を「外注できる作業」と捉えてしまうと、システムは次第に「言われたことを形にしただけの仕組み」になり、完成後に「思っていたものと違う」「業務に合わない」という違和感が生まれます。
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要件定義の曖昧さが招く典型的な失敗
要件定義が不十分なまま開発が進むと、さまざまな問題が発生します。
代表的なのが、開発途中での仕様変更の多発です。最初に目的や優先順位が整理されていないため、後から「あれも必要だった」「これも対応してほしい」と要望が追加され、コスト増や納期遅延につながります。
また、完成したシステムが現場で使われないケースも少なくありません。業務の実態や判断基準が要件に反映されていないため、入力が煩雑だったり、欲しい情報が見られなかったりするのです。
こうした結果が生じた場合でも、その責任をシステム開発会社に一方的に負わせることはできません。要件定義の主体が発注者である以上、その成果に対する責任も発注者に帰属します。
業務部門とIT部門の「二人三脚」が不可欠な理由
要件定義は、情報システム部門だけで完結する作業ではありません。業務の現場を知る業務部門と、システム全体を俯瞰するIT部門が連携して進める必要があります。
業務部門は日々のオペレーションや課題を把握していますが、システムとしてどう実装すべきかの判断は難しい場合があります。一方、IT部門は技術や構成に詳しいものの、業務の細部まで理解しているとは限りません。
両者が役割を分担しながら、「どこを標準化し、どこを柔軟にするのか」「将来の拡張をどこまで見据えるのか」といった判断を積み重ねることが、実効性の高い要件定義につながります。
システム開発会社は「決定者」ではなく「支援者」
発注者がすべてを独力で要件定義する必要はありません。人的リソースや経験が不足している場合、システム開発会社の知見を活用することは有効です。
ただし、その役割はあくまで「支援」です。業務整理の手法を提案したり、要件を構造化したり、実現可能性を整理したりすることはできますが、「何を実現するか」を決めるのは発注者です。
優れたシステム開発会社ほど、安易に要件を決めてくれることはありません。むしろ、「それは本当に必要か」「目的に対して過剰ではないか」と問い返し、発注者自身の意思決定を促します。
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フルスクラッチ開発において要件定義が持つ重み
フルスクラッチ開発は、既製品に縛られない自由度の高さが魅力です。しかしその自由度は、要件定義が曖昧な場合には大きなリスクにもなります。
「決まっていないこと」も実装できてしまうがゆえに、後から修正が効かず、結果的に使いにくいシステムが完成してしまうこともあります。
だからこそ、フルスクラッチ開発では、要件定義の段階で「何を決め、何を決めないか」を明確にすることが重要です。すべてを完璧に決め切る必要はありませんが、判断の軸と責任の所在を明らかにしておくことで、開発中の意思決定がぶれにくくなります。
要件定義は「責任を負う」覚悟から始まる
要件定義を発注者の責任として捉えることは、決して発注者を苦しめるための考え方ではありません。
むしろ、自社の事業に本当に必要なシステムを手に入れるための前提条件です。「自分たちが決める」「自分たちが責任を持つ」という意識があって初めて、システム開発会社との健全な協力関係が築かれます。
まとめ
システム開発における要件定義は、システム開発会社に委ねる作業ではなく、発注者自身が主体となって進めるべき重要な工程です。
業務部門とIT部門が連携し、システム開発会社の支援を受けながらも、最終的な判断と責任を発注者が担うことで、開発の方向性は明確になります。
特にフルスクラッチ開発では、要件定義の質がそのままシステムの価値に直結します。要件定義を「責任ある意思決定」として捉えることが、長期的に使い続けられるシステム構築への第一歩となります。
要件定義を発注者の責任として正しく捉え、主体的に向き合おうとすると、多くの担当者さまが「どこまで決めればよいのか」「業務とシステムをどう整理すべきか」という壁に直面します。こうした段階で重要なのは、単に仕様を形にする力ではなく、事業や業務の背景を踏まえて設計判断を支えられるパートナーの存在です。当社フレシット株式会社では、業務整理や目的の言語化から伴走し、要件定義の意思決定を技術と設計の両面から支援しています。要件を丸投げさせない一方で、発注者が責任を持って判断できる状態をつくる。その姿勢こそが、フルスクラッチ開発を成功へ導く確かな土台になります。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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