システム開発をフルスクラッチで成功させるために──要件定義書を「判断の原点」に据えるという選択
合意を積み重ねるための要件定義の役割
2026-01-21

システム開発が思うように進まない理由として、「仕様がぶれる」「判断がその都度変わる」「言った・言わないの議論が発生する」といった声を多く耳にします。こうした問題の多くは、技術力や開発体制以前に、要件定義の位置づけに原因があります。
要件定義書は単なる初期資料ではなく、プロジェクト全体の判断基準となる“原点”です。本コラムでは、IT化の原理原則[10]「要件定義書は判断の原点であり、立ち返る基準となる」を軸に、フルスクラッチ開発を成功に導くための考え方を整理します。
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目次
【要約】IT化の原理原則[10]要件定義書は判断の原点であり、立ち返る基準となる
要件定義書は、システム開発に関わる関係者全体の合意内容を明文化した、最も重要な判断基準です。設計や実装が進んだ後よりも、要件定義の合意形成段階で十分に吟味することが、プロジェクトの安定性を左右します。曖昧さを残したまま決定を先送りすると、判断軸が定まらず、後工程での混乱や破綻を招きます。名目的な合意ではなく、責任と影響を理解した実質的な合意が不可欠です。一度合意した要件定義書を拠り所として運用し、変更が生じた場合も必ずそこに立ち返って議論することが、継続的で健全なシステム開発につながります。
出典:独立行政法人情報処理推進機構
『超上流から攻める IT化の原理原則 17ヶ条』原理原則[1]
『実務に活かす IT化の原理原則 17ヶ条』原理原則[1]
「IT化の原理原則17ヶ条」が教える、IT導入を成功へ導くための基礎知識
IPAが公開する「IT化の原理原則17ヶ条」は、企業がIT導入やシステム開発を円滑に進めるための基本的な考え方を整理した指針です。ユーザー企業とシステム開発会社の視点の違い、要件定義の重要性、コミュニケーション不足が招く問題など、実務で起こりやすい課題を原理的に示している点が特長です。また、開発プロセスにおける責任や役割の明確化、投資判断の妥当性、品質確保への姿勢など、プロジェクト成功に必要な視点を包括的に提示しています。これらの原理原則を理解することで、組織が主体的にIT化を推進し、失敗しにくい体制を整えることができるようになります。
出典:独立行政法人情報処理推進機構
『超上流から攻める IT化の原理原則 17ヶ条』原理原則[1]
『実務に活かす IT化の原理原則 17ヶ条』原理原則[1]
ポイントをひとことで
要件定義書を判断の原点と捉える考え方は、システム開発を一過性のプロジェクトではなく、継続的な事業投資として扱う姿勢を示しています。初期段階で合意内容に十分な重みを持たせることで、後工程の意思決定が感情や場当たりに流れにくくなります。設計や変更の是非を常に立ち返って判断できる基準を持つことは、自由度の高いフルスクラッチ開発において特に重要であり、長期的な整合性と投資対効果を支える基盤になります。
要件定義書は「合意文書」である
要件定義書は、どのようなシステムを、どこまで、どの前提で作るのかを明文化した合意文書です。単に機能を列挙した設計資料ではなく、発注者とシステム開発会社が同じ判断軸を持つための共通言語と言えます。
この合意が曖昧なまま進むと、設計や開発が進むにつれて解釈のズレが顕在化し、修正や手戻りが増えていきます。要件定義書は、プロジェクトのスタート地点でありながら、同時にゴールまで一貫して参照されるべき基準です。
【関連記事】
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なぜ後工程ほど要件定義が重要になるのか
要件定義は「最初に作って終わり」と捉えられがちですが、実際には設計・開発・テスト・運用と進むほど、その重要性が増します。
仕様変更や追加要望が発生した際、要件定義書が判断基準として機能していれば、「当初の目的に照らして妥当か」「優先度はどうか」といった冷静な判断が可能になります。
一方、基準が存在しない場合、その場の声の大きさや緊急度で意思決定が行われ、結果としてシステム全体の整合性が失われていきます。
名目的な合意が招くリスク
要件定義の合意が形式的なものに留まると、プロジェクトは不安定になります。
「とりあえず進める」「後で決める」という姿勢は、一見柔軟に見えますが、実際には判断を先送りしているだけです。そのツケは、後工程でのコスト増や納期遅延、品質低下として表面化します。
要件定義書に基づく合意とは、責任と影響を理解したうえでの実質的な合意であり、その覚悟がプロジェクトの安定性を支えます。
フルスクラッチ開発と要件定義書の関係
フルスクラッチ開発は、既存パッケージに縛られず自由に設計できる点が特徴です。しかし、その自由度の高さは、判断基準が曖昧な場合には大きなリスクにもなります。
要件定義書が「バイブル」として機能していれば、自由度は武器になりますが、そうでなければ迷走を招きます。
フルスクラッチだからこそ、何を守り、何を変えてよいのかを明確にした要件定義が不可欠です。
変更が起きたときこそ立ち返る
システム開発において、変更が一切発生しないケースはほとんどありません。重要なのは、変更をどう扱うかです。
要件定義書を基準に、「なぜ変更が必要なのか」「当初の目的と矛盾しないか」を整理することで、建設的な議論が可能になります。
変更そのものを否定するのではなく、基準に照らして是非を判断する。この姿勢が、長期的に健全なシステムを支えます。
要件定義書は運用フェーズでも生き続ける
要件定義書は、リリース後の運用保守フェーズでも重要な役割を果たします。
機能追加や改修を検討する際、当初の目的や前提条件を確認することで、場当たり的な対応を防ぐことができます。
結果として、システムの肥大化や複雑化を抑え、長く使い続けられる基盤としての価値を維持できます。
まとめ
システム開発を成功させるためには、要件定義書を単なる初期資料として扱わず、判断の原点として位置づけることが重要です。
合意形成を曖昧にせず、要件定義書を共通の判断基準として持つことで、設計・開発・運用に至るまで一貫性のある意思決定が可能になります。
特にフルスクラッチ開発では、この基準の有無が成果を大きく左右します。要件定義書に立ち返る姿勢こそが、長期的に価値を生み続けるシステムを支える基盤となります。
フルスクラッチ開発において要件定義書を判断の原点として機能させるには、業務理解・設計力・実行力を一体で備えたパートナーが欠かせません。
フレシット株式会社では、要件を「書くこと」自体を目的にせず、事業背景や意思決定の前提、将来の変化まで含めて整理し、実際の設計・開発・運用判断に耐えうる要件定義を構築します。
いきなり機能や仕様に落とし込むのではなく、なぜその判断をするのか、どこまでを守り、どこからを柔軟にするのかを明確にしたうえで、要件・画面・データ設計へ一貫して反映させることが強みです。
要件定義に不安がある段階こそ、早期に伴走型で整理を進めることで、後工程の手戻りや迷走を防ぎ、結果としてプロジェクト全体の質と確度を高めることにつながります。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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