業務は変わるのに、システムだけが変われない理由
将来の取引変化を織り込んだシステム設計の視点
2026-01-23

業務システムの刷新や再構築を行ったにもかかわらず、「取引先が増えるたびに修正が必要になる」「業態が少し変わっただけで想定外の改修が発生する」といった悩みを抱える会社さまは少なくありません。こうした問題は、運用や現場対応の工夫で解決できるものではなく、システムの根幹であるデータベース設計に原因があるケースが大半です。
本コラムでは、取引先変更のたびに修正が発生するシステムがなぜ生まれるのかを整理し、逆に「修正を最小限に抑える設計」とは何かを考察します。
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目次
【記事要約】日用品業界で進む商品データ標準化、物流効率化を支える共通基盤構想
日用品業界では、卸・小売・メーカー間で扱われる商品情報のばらつきが、物流や業務効率の低下を招いてきた。こうした課題に対応するため、卸大手と商品データ管理会社が設立した新会社は、業界共通で利用できる商品データベースを構築する。従来はメーカーごとに情報項目や表記が異なり、卸が個別に調整・登録する必要があったが、新たな仕組みでは商品仕様に加え、梱包方法やロット数量など物流に直結する情報も含めて一元管理する。2026年4月の稼働開始を予定し、取引先が変わっても情報の再登録や修正を最小限に抑えられる設計とする。5年後には約1500社のメーカーを対象に標準化を進め、国内の日用品取引の大部分をカバーすることで、業務負担の軽減と物流コスト削減を同時に実現する構想である。
出典:日本経済新聞「日用品卸3社、物流連携 花王系など、コンテナ統一 回収トラック台数3割減」2026年1月14日付朝刊
ポイントをひとことで
取引先変更のたびに改修が発生するかどうかは、技術力ではなく設計時の前提の置き方で決まります。多くのシステムは「いまの業務」を正解として固定し、その外側に例外を足し続けた結果、変更コストが指数的に増えていきます。重要なのは業務を写すことではなく、変化の起点となる要素を構造として分離し、組み替えで吸収できる余地を残すことです。システム投資は完成時点ではなく、変更が発生した瞬間に真価が問われます。
取引先変更が「改修案件」になるシステムの正体
本来、取引先が増えたり変わったりすることは、事業が継続・成長している証拠です。しかし多くの業務システムでは、この前向きな変化がそのまま改修要件として積み上がっていきます。マスタ項目の追加、条件分岐の増加、帳票や連携処理の修正などが連鎖的に発生し、次第にシステム全体が硬直していきます。
この状態に陥るシステムには共通点があります。それは「特定の取引先や業務ルールを前提に設計されている」という点です。設計時点では合理的に見えた前提条件が、時間の経過とともに足かせへと変わっていきます。
失敗の出発点は「今の業務をそのまま写す設計」
データベース設計の初期段階でよく行われるのが、「現行業務を正確に再現する」ことを最優先にした設計です。確かに、立ち上げ時点ではスムーズに移行でき、現場の混乱も最小限に抑えられます。
しかし、この設計アプローチには大きな落とし穴があります。業務フローや取引条件は固定されたものではなく、必ず変化します。それにもかかわらず、データ構造を現行業務に密着させすぎると、前提が崩れた瞬間に修正が不可避になります。結果として、データベースが「過去の業務を前提にした構造」となり、未来の変化を受け止められなくなります。
マスタを増やし続けることで複雑化する構造
取引先ごとの差異に対応するため、多くのシステムではマスタ項目を追加することで対応しがちです。取引先別フラグ、個別条件カラム、例外用の設定値などが増え続け、当初は単純だった構造が徐々に複雑化していきます。
この方法は短期的には手軽ですが、長期的には大きな負債になります。どの項目がどの取引先に影響しているのか把握しづらくなり、修正の影響範囲が読めなくなります。結果として、変更のたびに慎重な確認が必要となり、スピードが著しく低下します。
「一度作ると壊せない」状態が生まれる理由
こうした積み重ねの先に生まれるのが、「触るのが怖いシステム」です。どこを修正しても別の機能に影響が出る可能性があり、設計当初の意図を理解している人も限られてきます。
この状態では、取引先が変わるたびに部分的な修正を重ねるしかなくなり、根本的な見直しが困難になります。システムは稼働しているものの、事業の柔軟性を支える基盤としては機能しなくなっていきます。
正解例に見る「修正を減らす設計」の考え方
一方で、取引先が変わっても追加・修正の手間を抑えることを前提にした設計も存在します。その特徴は、「誰と取引するか」ではなく、「どのような情報を扱うか」を軸にデータを整理している点にあります。
商品情報、取引条件、物流条件などを切り分け、それぞれを独立した構造として管理することで、特定の取引先に依存しない設計が可能になります。取引先が変わる場合でも、既存の構造を流用し、設定や組み合わせを変えるだけで対応できるようになります。
業務横断で設計しない限り、修正はなくならない
取引先変更時の修正を減らすためには、特定部署や一部業務だけを見て設計するのでは不十分です。営業、物流、経理、情報管理といった業務を横断的に捉え、「どこでデータが生まれ、どう使われ、どこまで影響するのか」を整理する必要があります。
この視点が欠けると、局所最適な設計になり、別の業務で必ず歪みが生じます。その歪みが、後の修正や改修として表面化します。
パッケージ導入で解決しにくい理由
既製のパッケージシステムは、一定の業務モデルを前提に設計されています。そのため、標準的な運用には適合しやすい一方で、取引先や業態の変化を前提とした柔軟なデータ設計には限界があります。
パッケージを導入しても、取引先ごとの差異を吸収できず、結局はアドオンや個別対応を重ねることになりがちです。その結果、修正が発生する構造そのものは変わらないまま残ります。
【関連記事】
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設計段階で問われるシステム投資の姿勢
取引先が変わるたびに修正が発生するシステムは、運用の問題ではなく、設計思想の問題です。短期的な導入スピードや初期コストを優先した結果、変更耐性を犠牲にしているケースが多く見られます。
システム投資において重要なのは、「今の業務が回るか」ではなく、「将来の変化をどれだけ低コストで吸収できるか」です。この視点を持てるかどうかが、数年後のシステム評価を大きく左右します。
まとめ
取引先が変わるたびに修正が発生するシステムは、偶然生まれるものではありません。現行業務を前提に固めすぎたデータベース設計や、差異を後付けで吸収しようとする構造が、その原因です。修正を最小限に抑えるためには、特定の取引先に依存しないデータ構造と、業務横断の視点を持った設計が不可欠です。システムの価値は、稼働直後ではなく、変化が起きたときにこそ問われます。設計段階でどこまで未来を想定できるかが、長く使えるシステムかどうかを決定づけます。
取引先が変わるたびに修正が発生するシステムは、運用の工夫では解決できません。原因は常に、最初の設計段階で「変わる前提」をどこまで織り込めていたかにあります。業務をそのまま写すのではなく、どこが共通で、どこが変化し続けるのかを整理し、データ構造として耐久性を持たせることが不可欠です。
フレシット株式会社は、フルスクラッチ(オーダーメイド)開発を専門とし、こうした変更耐性の低いシステムが生まれる構造そのものに向き合ってきました。既存の型やツールに業務を合わせるのではなく、業務・データ・将来変化を一体で捉えた設計から組み立てることで、取引先追加や業務拡張が負担にならないシステムを実現します。
いま抱えている修正の多さや窮屈さは、設計を見直すことで解消できる可能性があります。将来の変化を前提に、長く使い続けられるシステムを構築したいと考えたとき、フルスクラッチという選択肢が現実的な解決策になるはずです。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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