【学研HDのID連携戦略から読み解く】LTVはIDで決まる──顧客を“点”から“線”で捉えるシステム設計とは
共通ID導入後に問われる、顧客データ活用の設計視点
2026-03-24

事業の多角化やサービス拡張が進む中で、「顧客をどのように捉えるか」は経営そのものに直結するテーマとなっています。個別のサービス単位で顧客を管理するのか、それとも企業全体で一人の顧客として捉えるのか。この違いは、売上の伸び方に大きな差を生みます。
本コラムでは、共通IDの活用を軸に「顧客を点ではなく線で捉える」という考え方を掘り下げ、LTV最大化につながるシステム設計の要点を解説します。
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目次
【記事要約】学研HD、「GakkenID」を軸にグループ連携を強化へ、ID活用の本格化が成長の鍵に
学研HDは多角化によりグループ企業を拡大してきた一方、各サービス間の連携不足が課題となっている。これに対し、2017年に導入した共通ID「GakkenID」により、同一のIDとパスワードで複数サービスを利用可能とし、現在は約30サービスが対象となっている。ただし、現状ではグループ内の連携は十分とはいえず、顧客生涯価値(LTV)の最大化には至っていない。今後はID基盤を起点にサービス間の相互送客やデータ活用を進め、2年間でID活用を本格化させる方針である。分散した事業群をつなぐデジタル基盤の整備が、次の成長局面を左右する重要なテーマとなっている。
出典:日本経済新聞「〈THE STRATEGY〉学研HDの研究(上)「ゆるいM&A」で子会社育つ 買収先を尊重、結果すぐに求めず 医療福祉が収益の柱に」2026年3月13日付朝刊
LTV(顧客生涯価値)とは何か
LTV(Life Time Value:顧客生涯価値)とは、1人の顧客が取引を開始してから終了するまでの期間に、企業にもたらす総利益を指します。単発の売上ではなく、継続的な利用や追加購入、契約更新などを含めた“長期的な価値”で評価する考え方です。例えば、初回の購入額が小さくても、その後に継続利用やアップセルが見込める場合、LTVは高くなります。企業にとっては、顧客獲得コストとのバランスを判断する指標としても重要であり、既存顧客との関係を深める戦略の軸となります。また、サービス横断で顧客を捉え、接点を増やすことでLTVの向上が期待できます。
ポイントをひとことで
顧客IDの統合は技術課題ではなく、意思決定の単位をどこに置くかという設計判断です。サービスごとに最適化された仕組みを積み重ねるほど、後からつなぐコストは増大します。重要なのは、個別最適を許容する範囲と、全体で揃えるべき前提を最初に決めておくことです。IDはその起点にすぎず、データの持ち方や活用の前提まで一貫して設計されて初めて価値になります。ここを曖昧にしたまま進めると、連携は永遠に“後回しの課題”として残り続けます。
顧客が「点」で管理されると何が起きるのか
多くの企業では、サービスごとに顧客情報が分断されています。EC、会員サービス、サポート、アプリなど、それぞれで個別にIDが発行され、顧客は同一人物であっても別々の存在として扱われます。
この状態では、顧客の行動履歴はサービス単位でしか見えません。あるサービスで優良顧客であっても、別のサービスでは「新規顧客」として扱われてしまいます。その結果、マーケティング施策は断片的になり、適切な提案やクロスセルの機会を逃します。
さらに、顧客体験の面でも不整合が生まれます。ログイン情報が統一されていない、過去の利用履歴が引き継がれない、サポート対応が一貫しない。このような違和感は、離脱の原因となります。顧客を「点」でしか捉えられない状態は、見えない機会損失を生み続けていると言えます。
共通IDがもたらす「線」での顧客理解
共通IDは、この分断を解消するための起点です。同一のIDで複数サービスを利用できる状態をつくることで、顧客の行動が一本につながります。
これにより、あるサービスでの行動が別のサービスの提案に活かされるようになります。たとえば、教育サービスの利用履歴をもとに関連する講座を提案したり、購買履歴から次のニーズを予測したりといった施策が可能になります。
重要なのは、共通IDは単なるログインの利便性向上ではないという点です。顧客の利用履歴、接触履歴、意思決定の流れを一貫して把握するための基盤です。これが整うことで、顧客を「点」ではなく「時間軸でつながった存在」として捉えられるようになります。
この変化が、LTVの最大化に直結します。
なぜIDを統合しても連携が進まないのか
一方で、共通IDを導入したにもかかわらず、期待したほどの成果が出ないケースも少なくありません。その背景にはいくつかの典型的な課題があります。
まず、IDは共通化されているものの、データの持ち方がバラバラであるケースです。顧客情報の項目定義や更新ルールが統一されていないため、名寄せや統合が難しくなります。
次に、サービス間でのデータ連携が限定的であるケースです。IDは同じでも、実際にはデータが連動しておらず、活用されないままになっている状況です。
さらに、現場ごとにKPIが分断されている場合もあります。各サービスが個別最適で運用されていると、全体で顧客価値を高めるという視点が欠けてしまいます。
つまり、IDを揃えるだけでは不十分であり、「どのようにデータをつなぎ、どう活用するか」まで設計されていなければ、顧客は依然として分断されたままになります。
LTVを伸ばすために必要な設計の考え方
LTVを伸ばすためには、IDを中心に据えた設計が必要です。その際のポイントは大きく三つあります。
一つ目は、顧客データの一貫性を担保することです。どのサービスでも同じ粒度・同じ意味で顧客情報を扱えるように定義を揃える必要があります。
二つ目は、サービス横断でのデータ活用を前提にすることです。単にデータを蓄積するだけでなく、どのタイミングでどの情報を活用するのかを具体的に設計することが求められます。
三つ目は、顧客の行動を時間軸で捉えることです。初回接触から利用拡大、継続、離脱に至るまでの流れを可視化し、それぞれの段階で適切なアクションを設計します。
これらを踏まえることで、顧客一人ひとりに対して最適な体験を提供できるようになります。
フルスクラッチでなければ実現が難しい理由
ここまでの内容を実現しようとすると、既存のパッケージやツールの組み合わせでは対応しきれない場面が多くなります。
なぜなら、企業ごとにサービスの組み合わせや顧客の接点は異なり、画一的な仕組みでは最適化できないためです。既存の仕組みに合わせると、本来つなぐべきデータがつながらなかったり、運用でカバーするしかなくなったりします。
一方で、フルスクラッチであれば、顧客の捉え方からデータの持ち方、活用方法まで一貫して設計できます。サービスごとの特性を踏まえながら、全体として最適な形をつくることが可能です。
特に、複数事業を展開している企業や、今後サービス拡張を見据えている企業にとっては、この柔軟性が大きな差になります。
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まとめ
顧客を「点」で管理するか、「線」で捉えるか。この違いは、単なるシステムの話ではなく、売上の伸び方そのものに影響します。共通IDはその起点に過ぎず、本質はデータをどのようにつなぎ、どう活用するかにあります。LTVを高めるためには、顧客の時間軸を意識した設計と、それを支える仕組みが不可欠です。
顧客を「線」で捉え、LTVを高めていくためには、単にツールを導入するだけでは不十分です。どのデータを、どのタイミングで、どのように活用するのかまで踏み込んで設計することが求められます。しかし実際には、既存の仕組みの制約や、サービスごとの分断により、思うように連携が進まないケースも少なくありません。
当社フレシット株式会社では、こうした課題に対して、業務や顧客接点の整理から入り、企業ごとの状況に合わせた最適なシステムを一から設計・開発しています。単に機能を実装するのではなく、顧客の動きが自然につながり、継続的な価値創出につながる仕組みを重視している点が特徴です。
複数サービスを横断した顧客体験の設計や、データを活かした意思決定の高度化を見据えたシステム開発をご検討の際は、ぜひ一度ご相談ください。現状の課題整理から将来を見据えた設計まで、伴走しながらご支援いたします。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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