【マツダの開発改革から読み解く】システム開発で利益を削るのは機能ではなく“バリエーション”である理由
その“違い”、本当に必要ですか?システムが重くなる本当の理由
2026-03-26

製品やサービスの競争力を高めるために、機能を充実させることは重要です。しかし実務の現場では、「機能」そのものよりも「バリエーションの増加」がコストと複雑さを生み出しているケースが少なくありません。
グレード違い、色違い、条件違い、例外対応。これらが積み重なることで、システムは想像以上に扱いづらくなり、結果として利益を圧迫します。本コラムでは、バリエーションが増えることで何が起きるのか、そしてフルスクラッチ開発においてどのように向き合うべきかを実務的な視点で解説します。
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目次
【記事要約】マツダ、部品点数肥大からの脱却と水平協業で開発体制を再構築
マツダは製品への強いこだわりから、車種ごとのグレードや色、機能の増加により部品点数が膨張し、結果としてコスト構造が複雑化していた。この非効率を是正するため、従来の階層的なサプライチェーンを見直し、部品会社と対等な関係で初期段階から共同開発を行う体制へ転換した。仕様の整理や部品の共通化を進めつつ、開発段階からの密な連携により無駄を削減し、コストと開発効率の両立を図る。こうした構造改革により、外部環境の変動に左右されにくい強靱な経営基盤の確立を目指している。
出典:日本経済新聞「Re:road マツダの覚悟(上)コスト減へ3本の矢走る マツダ、部品会社と開発ワンチーム 米関税の危機にも抵抗力」2026年3月19日付朝刊
ポイントをひとことで
システム投資で見落とされがちなのは、機能の数ではなく「違いの持ち方」です。バリエーションが増えるほど、開発や運用の負荷は線形ではなく膨らみ、改善や拡張のたびに足かせになります。本来設計でやるべきことは、要望をそのまま分岐として受け入れることではなく、共通化できる単位まで整理し、例外を減らすことです。意思決定の軸を明確にし、「分ける理由」と「揃える基準」を持てるかどうかが、長期的なコストと柔軟性を左右します。
バリエーションは“機能の影”で増殖する
システム開発において、機能追加そのものが問題になることは多くありません。むしろ本質的な課題は、「同じ機能の中にどれだけの違いを持ち込むか」にあります。
例えば受発注システムであれば、
- 取引先ごとの条件違い
- 商品ごとの価格ルール
- 顧客ランクによる処理分岐
- 拠点ごとの業務フロー差異
といった形で、「一見同じ機能」の中に複数のパターンが入り込みます。このとき、機能は1つでも、内部では複数の処理が並列に存在する状態になります。
結果として、システムはシンプルな機能の集合ではなく、「条件分岐の集合体」に変わっていきます。これがバリエーション増加の本質です。
バリエーションが増えると何が起きるのか
バリエーションの増加は、見た目以上に広範囲へ影響を及ぼします。
まず開発面では、仕様の理解と実装の難易度が上がります。同じ画面でも条件によって挙動が変わるため、設計の時点で網羅すべきパターンが増え、漏れや認識齟齬が起きやすくなります。
次にテスト工程です。単一機能であれば確認パターンは限定されますが、バリエーションが増えると組み合わせは指数的に増えます。結果としてテスト工数が膨れ上がり、品質担保の難易度が上がります。
さらに運用保守フェーズでは、トラブル対応が複雑になります。「特定条件下のみで発生する不具合」が増えるため、原因特定に時間がかかり、現場の負荷が高まります。
このように、バリエーションは開発・テスト・運用保守のすべてに影響し、コストを押し上げていきます。
なぜバリエーションは増え続けるのか
多くのプロジェクトでバリエーションが増えていく背景には、いくつかの共通要因があります。
一つは「個別最適の積み重ね」です。
現場の要望に応じて一つひとつ対応していくと、結果的に全体として統一感のない仕様になります。
二つ目は「既存業務の踏襲」です。
過去の運用をそのままシステムに落とし込むことで、例外処理や特殊ルールがそのまま残ります。
三つ目は「将来への不安」です。
「今後必要になるかもしれない」という理由で、あらかじめ複数パターンを持たせる設計が採用されることがあります。
これらは一見合理的に見えますが、積み重なることでシステム全体の複雑さを大きく引き上げます。
フルスクラッチ開発ほどバリエーション管理が重要になる理由
フルスクラッチ開発は自由度が高い反面、設計の意思決定がそのままシステムの形になります。
パッケージであれば、ある程度の制約があるためバリエーションは自然と抑制されます。しかしフルスクラッチでは、要望をそのまま反映できてしまうため、無意識のうちにバリエーションが増えていきます。
つまり、自由度が高いほど「何を作らないか」の判断が重要になります。ここで求められるのは、機能単位ではなく「違いの持たせ方」を設計する視点です。
- 本当に分けるべきか
- 統一できるルールはないか
- 例外ではなく原則に寄せられないか
こうした判断が、開発コストと運用効率を大きく左右します。
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バリエーションを抑えるための実務的な考え方
バリエーションを適切に管理するためには、いくつかのポイントがあります。
まず重要なのは、「分類」と「統合」です。似た条件をグルーピングし、可能な限り共通ルールにまとめることで、分岐の数を減らします。
次に、「例外の扱い方」です。例外をそのまま仕様として取り込むのではなく、運用で吸収できる部分はシステムに持ち込まない判断も必要です。
さらに、「初期設計での整理」です。開発が進んでからバリエーションを削減することは難しいため、要件定義の段階でどこまで許容するかを明確にしておくことが重要です。
最後に、「意思決定の軸を持つこと」です。利便性、コスト、運用負荷のどこを優先するのかを明確にすることで、安易な分岐追加を防ぐことができます。
“多様性”と“複雑さ”は別物である
ビジネスにおいて多様性は重要です。しかし、それをそのままシステムに持ち込むと、複雑さとして跳ね返ってきます。重要なのは、多様なニーズを「そのまま再現する」のではなく、「整理して扱える形に変換する」ことです。
この変換がうまくいけば、少ないバリエーションでも多くのケースに対応できます。一方で変換が不十分なまま開発が進むと、無数の分岐を抱えたシステムになります。
結果として、後者は拡張性も保守性も低く、長期的に見てコストが増え続ける状態になります。
まとめ
システム開発において利益を削る要因は、単純な機能の多さではありません。問題となるのは、同じ機能の中にどれだけの違いを持ち込むかという点です。
バリエーションが増えるほど、開発・テスト・運用保守の負荷は高まり、結果としてコストが積み上がります。フルスクラッチ開発では特に、この点への意識が欠かせません。
重要なのは、「どこまで作るか」ではなく「どこまで揃えるか」を考えることです。
この視点を持つことで、システムはシンプルで強いものになります。
フルスクラッチ開発は自由度が高いからこそ、「何を作るか」だけでなく「どこまで揃えるか」「どこで線を引くか」が品質とコストを大きく左右します。しかし実際には、この判断を適切に行うことは簡単ではありません。現場の要望や既存業務をそのまま取り込んでしまい、結果としてバリエーションが増え続けるケースも少なくありません。
当社フレシット株式会社では、単に要件を形にするのではなく、業務の背景や意思決定の軸まで踏み込み、バリエーションを整理したうえで最適な形に設計します。機能を増やすのではなく、シンプルに使い続けられる状態をつくることに重きを置いています。
もし、これからフルスクラッチでのシステム開発を検討されているのであれば、一度「本当に必要な違いは何か」という観点から見直してみてはいかがでしょうか。その整理こそが、長く使えるシステムへの第一歩になります。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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