【マツダの開発改革から読み解く】フルスクラッチ開発はなぜ複雑化するのか?機能追加がコストを膨らませる理由
“全部やる”が一番危ない。機能追加で失敗する理由
2026-03-31

フルスクラッチ開発は、自社の業務に最適化されたシステムを実現できる一方で、「作れば作るほど良くなる」という誤解がつきまといます。現場の要望に応じて機能を追加していった結果、いつの間にか扱いづらく、コストのかかるシステムになってしまうケースは少なくありません。
本コラムでは、なぜフルスクラッチ開発は複雑になりやすいのか、その背景にある考え方と、コストを抑えながら価値を高めるための設計視点について解説します。
>>フルスクラッチ(オーダーメイド)のシステム開発について詳細はこちら
目次
【記事要約】マツダ、部品点数肥大からの脱却と水平協業で開発体制を再構築
マツダは製品への強いこだわりから、車種ごとのグレードや色、機能の増加により部品点数が膨張し、結果としてコスト構造が複雑化していた。この非効率を是正するため、従来の階層的なサプライチェーンを見直し、部品会社と対等な関係で初期段階から共同開発を行う体制へ転換した。仕様の整理や部品の共通化を進めつつ、開発段階からの密な連携により無駄を削減し、コストと開発効率の両立を図る。こうした構造改革により、外部環境の変動に左右されにくい強靱な経営基盤の確立を目指している。
出典:日本経済新聞「Re:road マツダの覚悟(上)コスト減へ3本の矢走る マツダ、部品会社と開発ワンチーム 米関税の危機にも抵抗力」2026年3月19日付朝刊
ポイントをひとことで
フルスクラッチ開発で問われるのは、要望をどれだけ実現するかではなく、どこで線を引くかという判断です。個別対応を積み重ねるほど一見柔軟に見えますが、実際には変更や改善の自由度を自ら下げていきます。重要なのは、例外を増やすのではなく、共通ルールへ寄せる設計です。すべてを分けるのではなく、あえて揃えることで、開発・運用の負荷を抑えつつ継続的な改善が可能になります。この視点の有無が、システムの寿命と投資対効果を大きく左右します。
フルスクラッチ開発はなぜ複雑になりやすいのか
フルスクラッチ開発の最大の特徴は「自由に作れること」です。しかし、この自由度こそが複雑さを生む原因になります。
パッケージシステムには一定の制約があります。できることとできないことが明確であり、その枠の中で業務を調整する必要があります。一方でフルスクラッチ開発では、業務に合わせてシステムを設計できるため、現場の細かな要望にも対応できます。
このとき問題になるのが、「すべての要望に応えようとする意思決定」です。
個別の要望はそれぞれ合理的に見えますが、積み重なることで全体の整合性が崩れ、結果として複雑なシステムになります。
【関連記事】
フルスクラッチのシステム開発は時代遅れではない!その理由と向いている企業の特徴について解説
機能追加がコストを押し上げる本当の理由
機能を追加すること自体が悪いわけではありません。問題は、その機能がどのように追加されるかです。例えば「特定の顧客だけ別の処理をしたい」という要望があった場合、それに対応するための条件分岐が追加されます。同様の要望が増えると、システムの中には複数の分岐が存在するようになります。
これにより、開発時には設計や実装の難易度が上がり、テストでは確認すべきパターンが増え、運用では想定外の組み合わせによる不具合が発生しやすくなります。
つまり、機能追加は単純な足し算ではなく、掛け算的に影響が広がります。この点が見落とされやすく、結果としてコストが想定以上に膨らむ原因になります。
「作れば作るほど良い」はなぜ誤解なのか
多くのプロジェクトで、「機能が多いほど価値が高い」と考えられがちです。しかし実際には、機能が増えるほど使いにくくなり、現場の負担が増えるケースもあります。
理由はシンプルで、選択肢が増えるほど判断が難しくなるためです。入力項目が増えれば入力ミスが増え、操作が複雑になれば教育コストが上がります。結果として、システムの利用率が下がることもあります。
また、機能が増えるほど改修時の影響範囲も広がります。一つの変更が別の機能に影響するリスクが高まり、改善のスピードが落ちていきます。
このように、機能の多さは必ずしも価値の高さには直結しません。
複雑化を招く意思決定のパターン
フルスクラッチ開発が複雑になる背景には、いくつかの典型的な意思決定があります。
まず、「例外をそのまま受け入れる」ことです。本来であれば業務側で整理すべき内容を、そのままシステムで対応しようとすると、分岐が増えていきます。
次に、「過去のやり方をそのまま再現する」ことです。既存の業務を変えずにシステム化すると、非効率な部分まで引き継がれます。
さらに、「将来のために先回りする」ことも挙げられます。将来使うかもしれない機能をあらかじめ入れておくことで、結果的に不要な機能が増えていきます。
これらは一つひとつは合理的に見えますが、積み重なることで全体の複雑さを押し上げます。
複雑化を防ぐための設計視点
では、フルスクラッチ開発において複雑化を防ぐにはどうすればよいのでしょうか。
重要なのは、「要望をそのまま形にしないこと」です。要望の背景にある目的を理解し、それを満たす最もシンプルな方法を設計することが求められます。
例えば、顧客ごとの個別対応をすべて分岐で処理するのではなく、ルールとして整理できないかを検討します。共通化できる部分を見つけることで、システムは大幅にシンプルになります。
また、「何を作らないか」を決めることも重要です。すべての要望に応えるのではなく、優先順位を明確にし、本当に必要なものだけを実装することで、開発コストと運用負荷を抑えることができます。
さらに、初期段階での整理が重要です。開発が進んでから修正するよりも、要件定義の段階で方向性を定める方が、コストを抑えやすくなります。
フルスクラッチ開発に求められる本当の価値
フルスクラッチ開発の価値は、「何でも作れること」ではありません。
本質は、「必要なものだけを最適な形で作れること」にあります。自由度の高さを活かすためには、取捨選択の判断が不可欠です。この判断が曖昧なまま開発が進むと、結果として複雑で扱いにくいシステムになります。
逆に、明確な方針のもとで設計されたシステムは、シンプルで拡張しやすく、長期的に価値を発揮します。つまり、フルスクラッチ開発の成否は、機能の多さではなく、設計の質によって決まります。
まとめ
フルスクラッチ開発が複雑化する原因は、自由度の高さにあります。要望をそのまま積み重ねることで、機能は増え続け、結果としてコストと運用負荷が膨らみます。
重要なのは、「どれだけ作るか」ではなく「どこまで絞るか」という視点です。機能追加を慎重に判断し、共通化と整理を意識することで、シンプルで強いシステムを実現できます。
フルスクラッチ開発は、正しく設計すれば大きな価値を生みます。そのためには、自由度を活かしつつ、あえて制御する意思決定が欠かせません。
フルスクラッチ開発において難しいのは、機能を増やすことではなく、「どこで止めるか」「どう整理するか」の判断です。ここを誤ると、開発段階では見えにくい負担が、運用や改修の場面で顕在化していきます。
当社フレシット株式会社では、単に要望を形にするのではなく、業務の背景や意思決定の意図まで踏まえたうえで、本当に必要な機能とそうでないものを切り分けていきます。初期段階から全体像を整理し、共通化できる部分は揃え、無理に分けるべきでないところはあえてシンプルに保つ。その積み重ねによって、長く使えるシステムを実現しています。
もし、機能を増やし続けることに違和感を感じているのであれば、一度立ち止まり、「どう作るか」ではなく「どう整えるか」という観点で見直してみてはいかがでしょうか。その視点が、開発の質を大きく変えるきっかけになります。
>>フルスクラッチ(オーダーメイド)のシステム開発について詳細はこちら
著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

公式Xアカウントはこちら