PaaS or フルスクラッチ? 意思決定を誤らないための『業務の棚卸し』チェックリスト
技術選定を誤らないための、業務整理というアプローチ
2025-04-05

DXを見据えてシステム導入を検討する際、必ずといっていいほど直面するのが「PaaSを使うか、フルスクラッチで構築するか」という選択です。
Salesforceなどに代表されるPaaS(Platform as a Service)は、導入スピードや拡張性に優れる一方で、業務要件によってはかえって柔軟性を損なうこともあります。
本コラムでは、意思決定を誤らないために欠かせない「業務の棚卸し」の観点から、PaaSとフルスクラッチ、どちらが適しているかを判断するための実践的なチェックポイントをご紹介します。
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目次
【記事要約】文化シヤッター訴訟にみるDXの落とし穴、PaaS活用失敗で日本IBMに賠償命令
文化シヤッターの販売管理システム刷新において、日本IBMはPaaS「Salesforce1 Platform」での開発を請け負ったが、カスタム開発が想定の20%から95%に膨張し、開発は頓挫。東京地裁は、同社がPaaSの技術的制約を軽視しプロジェクト管理義務を怠ったと認定し、19.8億円の賠償を命じた。DX推進には、標準機能の活用と業務プロセス改革の両立が不可欠である。
出典:日経コンピュータ、2022年8月4日号 pp.104-106「販売管理システムの開発が頓挫 日本IBMに19.8億円の賠償命令」
【記事要約】文化シヤッター訴訟確定、DX失敗の責任問われ日本IBMに約20億円の賠償命令
文化シヤッターのDX推進の一環で始まった販売管理システム刷新が頓挫し、日本IBMに約20億円の賠償が確定した。最高裁は2025年1月、双方の上告を棄却。PaaS「Salesforce1 Platform」の制約やカスタム開発の過剰による構築失敗が主因とされ、プロジェクト管理の不備がDX失敗に直結した。本件は、クラウド活用における適切な設計と標準機能重視の重要性を浮き彫りにしている。
出典:日経クロステック「文化シヤッターのシステム開発訴訟の判決が確定、日本IBMに20億円の賠償命じる」2025年1月15日
ポイントをひとことで
このコラムは、システム開発の初期段階で「PaaSかフルスクラッチか」を判断する際に、技術やコストだけでなく“業務の複雑性と独自性”を見極める重要性を的確に伝えています。特に、業務の棚卸しをせずにPaaSを選ぶと、後からカスタム開発が膨らみ、制約やコストの壁に直面するケースが少なくありません。業務とシステムの整合性を保ち、持続可能なDXを実現するためには、選定前の棚卸しと、柔軟な設計が可能な体制づくりが不可欠です。
PaaSとフルスクラッチ、それぞれの特徴を再確認
まずは、両者の基本的な特性を整理しましょう。
区分 | PaaS活用型開発 | フルスクラッチ開発 |
初期コスト | 比較的抑えられる | 高めになる傾向 |
開発スピード | 早期リリースが可能 | 要件に応じて変動 |
拡張性・柔軟性 | 制約がある | 業務に合わせて自在に設計可能 |
保守性・運用性 | プラットフォーム依存 | 自社に最適化された設計が可能 |
技術的制約 | ガバナ制限や標準UI制限あり | 自由度が高く、制約は少ない |
PaaSは短期的な効率重視には向いていますが、業務の複雑さや将来的な拡張性を考慮すると、フルスクラッチの方が優れている場面も多くあります。
【チェックリスト】業務の棚卸しから導く最適な開発手法
以下は、システム導入を検討するうえで「自社はPaaSで対応できるのか、それともフルスクラッチが必要か」を見極めるためのチェックリストです。
3つ以上当てはまる場合は、フルスクラッチの検討が強く推奨されます。
業務プロセス編
- 自社独自の業務フローが多数存在する
- 部門ごとに異なる運用ルールが定着している
- 外部システムとの複雑な連携が必要
- 属人化した業務を仕組みとして落とし込みたい
機能・設計要件編
- 標準UIでは業務効率が著しく落ちる
- カスタムロジックや非定型な処理が多い
- 今後の事業成長に合わせて機能追加が必要
- 複数業務・プロジェクトを横断するデータ活用をしたい
運用・コスト編
- 長期的に見てサブスクリプションコストが高くなりそう
- 運用保守まで自社内でコントロールしたい
- ベンダーロックインを避けたい
判断を誤ると、後戻りできないリスクも
PaaSを選択したものの、「やはり業務に合わなかった」「思ったよりカスタム開発が膨らみ、費用も納期も崩れた」といったケースは少なくありません。
特に、カスタム比率が高くなればなるほど、PaaSの技術的制約(例:コード量の上限やバージョンアップ対応)に引っかかりやすくなり、運用コストやトラブルが発生しやすくなります。
「PaaSで始めたが、途中でフルスクラッチに切り替える」という選択は現実的ではなく、設計・開発・データ移行をやり直すリスクが発生します。
そのためにも、最初の「業務の棚卸し」と方針判断が極めて重要なのです。
フルスクラッチ開発=特別な選択肢ではない
かつては「フルスクラッチは大企業向け」「コストが高い」といったイメージがありましたが、現在では中堅・中小企業でも業務にフィットした高効率な開発手法として選ばれる場面が増えています。
業務要件が複雑、あるいは自社の競争優位に直結する領域であれば、むしろフルスクラッチの方がコストパフォーマンスが高く、運用性にも優れています。
重要なのは「自社の業務に本当に必要なものは何か」を見極めること。
その判断の先に、最適なシステムと、持続可能なDXがあります。
まとめ:システム導入前の“業務の棚卸し”が未来を変える
PaaSかフルスクラッチか——それは機能や費用の比較だけでなく、自社の業務をどこまで理解し、言語化できているかによって左右されます。
今回ご紹介したチェックリストを活用し、システムの選択に入る前に、まずは“業務の棚卸し”を徹底しましょう。
業務の全体像と目的を明確にしたうえでの開発手法選定こそが、DX成功への第一歩です。
だからこそ、“業務の棚卸し”と“開発方針の見極め”には、深い業務理解と柔軟な設計力を持つパートナーの存在が欠かせません。
フレシット株式会社は、フルスクラッチ(オーダーメイド)開発に特化したシステム開発会社として、業務要件の整理から設計・開発・運用までを一貫してサポートいたします。
業務の複雑性や独自性を的確に捉えたうえで、最適なアーキテクチャと無駄のない機能構成をご提案し、将来の拡張や変化にも強いシステムを実現します。
「PaaSでは業務にフィットしないかもしれない」「後悔のない意思決定をしたい」とお考えの方は、ぜひ一度フレシットにご相談ください。
“業務に真に寄り添うシステム”を、私たちと一緒に構築しましょう。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田 順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。