システム開発の外部委託について | 5つのリスクと準備のポイントを解説
2025-05-23

専門性の高いシステム開発会社に業務を委託する「外部委託」は、システム開発において長年主流の方法として選ばれています。
その一方で、外部委託には認識のズレや品質のばらつき、情報漏洩などのリスクがつきものです。こうしたリスクを正しく理解し、適切な準備を行うことが、外部委託でのシステム開発を成功させるカギとなります。
このコラムでは、
- システム開発の外部委託とは?
- システム開発における外部委託の5つのリスク
- システム開発の外部委託前に押さえておくべきポイント
について解説します。
この記事を外部委託の検討に役立て、自社のシステム開発を成功させましょう。
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目次
システム開発の外部委託とは?
システム開発の外部委託とは、企業が自社のシステム開発や運用保守に関する業務を、外部のシステム開発会社に委託することを指します。自社内でのリソース確保や技術力に限界がある場合でも、外部の高い専門性を活用することで、品質の高いシステムを効率的に構築・運用できる点が大きなメリットです。
また、外部委託によって自社の人材をコア業務に集中させ、生産性の向上や事業スピードの加速を図ることも可能になります。
一方で、外部委託にはコスト管理やプロジェクト進行におけるリスク管理も求められるため、外部委託先の選定や契約条件の整備が重要なポイントとなります。
外部への委託の前に、まずはシステム開発の流れについて理解しておきたい方は、以下のコラムをご参照ください。
>システム開発の依頼の流れは?失敗しないためのシステム開発会社の選び方についても解説
システム開発における外部委託の最近の傾向は?
システム開発を外部委託で進めるのは、一般的な選択とされています。しかし近年は、システム開発の内製化の傾向が強まっていることも事実です。
日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)がまとめた『企業IT動向調査報告書2024』によると、システム開発内製化の傾向は年々高まっていることがわかります。

SaaSをはじめとするクラウドサービスの中にはノーコード、つまり、プログラミング不要でシステム開発ができるようなものもあり、専門知識がなくともシステム開発できる場合もあります。また、自社システムのノウハウを社内に蓄積したいと考える企業も徐々に増えてきており、このような背景がシステム開発の内製化を加速させています。
システム開発の内製化について、詳しくは以下のコラムをご参照ください。
>システム内製化のメリット・デメリットとは?成功のポイントまで徹底解説!
システム開発の外部委託の必要性
では、システム開発は外部委託せず、自社開発を行うべきなのでしょうか?いいえ、必ずしもそうとは限りません。
同調査では、外部委託をする理由についても調査結果をまとめているため、ご紹介いたします。

調査をもとに、外部委託を行う理由を大きく3つにまとめます。
- 社内リソースの最適化
社員の労力を抑えるために、システム開発を外部委託する企業も少なくありません。この背景には、社員には自社のコア業務に集中してもらい、より業務を効率化したいという狙いがあります。 - 社外専門技術者の活用
自社の知見だけではAIやクラウド活用などの最新技術に対するノウハウが不足しがちになります。外部委託をすることで、自社ではカバーしきれないシステム開発における最新ノウハウを活用したいと考えている企業も多いようです。 - コスト削減
システム開発を行う人的リソースを常に抱えておくことは、企業にとってコストの増加につながります。必要なときに必要なだけの人員を確保することができるのは、システム開発の外部委託をすることの大きな強みです。
このように外部委託は、システム開発における選択肢として十分に有効な方法であるといえます。
システム開発を外部委託する場合の契約形態
システム開発を外部に委託する場合には、大きく分けて2つの契約形態があります。それは、準委任契約と請負契約です。
準委任契約とは、成果物(完成したシステムや、設計書など)ではなく、「作業そのもの」に対して報酬が発生する契約形態です。委託されたシステム開発会社はシステム開発という作業を推進しますが、成果保証の義務はありません。そのため、進捗管理や品質チェックは発注側である企業が責任をもって行う必要があります。
請負契約とは、契約で合意した「成果物の完成」に対して報酬が支払われる契約形態です。請け負ったシステム開発会社は成果物を納品する義務があり、品質や納期についての責任もシステム開発会社にあります。そのため、企業は成果物に対して検収を行い、問題がなければ報酬を支払います。
準委任契約 | 請負契約 | |
契約の目的 | 業務の遂行そのもの | 成果物の完成・納品 |
対価を支払う対象 | 作業時間や業務遂行への労力 | 完成した成果物 |
成果物の要否 | 必須ではない(成果物の提出は求められないことも多い) | 必須(成果物の納品が契約の条件) |
責任範囲 | 作業を遂行すること(成果保証なし) | 成果物を完成させること(成果保証あり) |
適したケース | 仕様が確定していないプロジェクトや作業プロセスが重視される業務 | 納期や成果物が明確に定められているプロジェクト |
準委任契約について、詳しくは以下のコラムをご参照ください。
>システム開発における準委任契約とは?請負契約との違いなども徹底解説
システム開発における外部委託の5つのリスク
システム開発において主流である外部委託ですが、リスクがあることも忘れてはいけません。ここではそのリスクについて5つ解説します。
1.要件定義のズレ
システム開発で最も重要な工程は、要件定義だと当社は考えています。
要件定義とは開発するシステムで「何を実現したいのか」「どのように実現したいのか」をまとめたものを指します。つまり、成果物や作業内容はこの要件定義に基づいて決まります。
外部委託でシステム開発を進める際は、要件定義を明確に固めた上でシステム開発会社に共有することが重要で、システム開発を円滑に進めるための必須条件といえるでしょう。要件定義の解釈にズレがあった場合、実現したいシステムとは異なるシステムができあがることも十分にあり得ます。
特に、請負契約の場合では契約時点の要件定義に基づいて成果物が設定されるため、要件定義のズレは仕様変更と捉えられ、別費用を請求されることは珍しくありません。その結果、修正対応に時間も人員も割くことになり、予期せぬコストの増加につながるのです。
企業側としては要件定義に盛り込んでいたはずの内容を、仕様変更と捉えられることは不当に感じてしまうかもしれません。しかし、システム開発においては要件定義で汲み取ることができない要望は仕様変更とみなされます。その点はしっかり理解しておきましょう。
要件定義について、詳しくは以下のコラムをご参照ください。
2.スケジュール遅延
いざ設計や開発を進めた結果、さまざまな理由から想定していた開発スケジュールに対して遅延が発生することもあります。
要件の理解不足や開発難易度、規模の見積りの甘さ、開発する環境の不備などが主な遅延の原因です。
準委任契約の場合、作業そのものに対して報酬を支払うため、スケジュールの遅延や遅延を回避するための人員増加は、コスト増に直結してしまうため注意が必要です。
3.品質管理の難しさ
品質管理をシステム開発会社任せきりにすることにも、リスクが伴います。
外部委託をすると多くの場合、設計や製造(プログラミング)、テストはシステム開発会社が行います。
しかし、品質管理を全てシステム開発会社に任せきりにすると、例えシステム開発会社が独自で設けた品質基準を満たしていたとしても、企業側が想定していた品質には届いていない、という問題が生じる可能性があります。特にシステム開発会社が持ち帰り開発を行う受託開発の場合、直接企業側が品質を確認することが難しい場合もあります。そのため、品質管理の方法を工夫する必要があるでしょう。
受託開発について、詳しくは以下のコラムをご参照ください。
4.情報漏洩の危険性
外部委託では、情報漏洩のリスクも高まります。
例えば、意図せずシステムの開発テストにおいて本物の顧客データを利用してしまった場合、第三者であるシステム開発会社に顧客の個人情報が流出したり、プライバシーの侵害につながったりする可能性があります。
また、社内ネットワークがシステム開発会社に触れられる状態になることも非常に多いです。社内ネットワーク上に機密情報が残っているままにすると、情報漏洩の危険性が高まります。
5.運用保守フェーズのトラブル
外部委託は、システム開発が完了した後の運用保守にも影響を与えることも、知っておかなければなりません。
システム開発会社が運用保守手順などを残さなかった場合、システムがブラックボックス化してしまいます。すると、社員や別の運用保守担当会社に対して、運用保守の引継ぎがスムーズにできないなどの問題が発生してしまうのです。
また、開発が楽でも運用保守がしにくい仕組みを持ったシステムを構築すると、運用保守のコストが上がってしまいます。外部委託する際には開発後の運用保守についても考慮しておきましょう。
システム開発の外部委託前に押さえておくべきポイント
システム開発の外部委託で重要なのは、リスクを把握した上で契約前に準備を進めておくことです。ここでは外部委託のリスクを下げるポイントを5つ紹介します。
1.目的・業務要件の明確化
システム開発において、最重要といえるのが要件定義です。
このシステムで、「何を実現したいのか」「業務をどうしていきたいのか」を明確に決める必要があるのです。
要件が定まらないままシステム開発を外部委託してしまうと、求めるシステムは絶対に実現できません。その際、要件はRFPとしてまとめておくことがポイントです。
RFP(Request for Proposal:提案依頼書)とは、企業がシステム開発会社にシステム開発を依頼する際に要件をまとめたもので、主にシステム開発の背景や現状の課題、システム化の目的、予算、スケジュールなどをまとめます。RFPを用意しておくことで、複数のシステム開発会社に見積り依頼を出しやすく、また、同じ条件での見積りをしてもらえるので比較がしやすいという利点があります。
RFP作成そのものをサポートする企業もありますので、自社で作成することが難しい場合は、こちらも検討してみましょう。
RFPについて、詳しくは以下のコラムをご参照ください。
2.社内体制の整備
外部委託を行うには、社内の体制整備が不可欠です。
システム開発会社との窓口となる担当者、最終的な意思決定を行う責任者をなど明確にしておくことで指示系統がはっきりし、システム開発会社とのコミュニケーションがとりやすくなります。社内の体制が整備されないまま、外部委託を進めてしまうと、責任の所在がわからなくなり、システム開発会社任せになりがちです。企業側が進捗や品質を正しく把握するためにも、まずは社内体制を整備し、システム開発におけるそれぞれの役割を整理しておきましょう。
3.目的に適したシステム開発会社選定
システム開発会社はシステム開発のプロです。
しかし、システム開発会社の中でも得意分野は違っています。システム開発会社選定の際には、以下の項目などを参考に総合的に判断することが重要です。
- 自社の業種、業界でのシステム開発事例がある
- 費用に対して、相当の効果が期待できる
- 質問に丁寧に応えてくれる
- レスポンスが早い
また、見積り時点で、システム開発会社を一社に絞るのは危険です。RFPを利用して、必ず複数のシステム開発会社に見積りを出し、比較検討をするようにしましょう。
4.契約内容の明文化と確認
外部委託は、契約書に書かれていることがすべてです。
契約書に書かれていないことを委託先に依頼すると、追加費用が発生してしまうこともあります。委託形態、成果物の有無、品質保証の方法などを、契約時点で明文化しておくことが重要です。設計書やテスト結果報告書はもちろんのこと、運用保守に支障が出ないように教育や引継ぎに必要な資料も成果物として盛り込めるか、事前にシステム開発会社と協議しましょう。
なお、準委任契約では一般的には成果物はありません。しかし、作業が正しく行われたかを確認するための証跡として、開発担当者の稼働時間や品質管理の結果をまとめた資料などを成果物とすることも可能です。必要に応じてシステム開発会社に相談してみましょう。
5.データやアクセス権のセキュリティ対策
外部委託では社外持ち出し禁止のデータや、社内ネットワークにシステム開発会社が触れる可能性があります。
開発テスト用のデータは、事前にマスキングするなど対策を取りましょう。データのマスキングとは、個人情報などの対象のデータを他の文字に置き換えることで、誰の情報か判断できないようにすることです。こうすることで、システム開発会社による個人情報漏洩やプライバシー侵害のリスクを抑えることができます。
また、開発する環境と社内のネットワークを分ることやシステム開発会社のアカウントでは機密情報にアクセスできないよう権限設定をすることも有効な対策です。機密情報には触れさせない、という姿勢を徹底しましょう。
リスクを把握し価値ある外部委託を
システム開発において、外部委託は有効な手段です。しかし、リスクに対して対策を怠ると、望んだシステムが完成せず開発コストが増加し続けるという状況に陥りかねません。
システム開発の外部委託は適切な準備を行うことでその効果を最大限に発揮するため、リスクを正しく理解し、価値あるシステム開発を実現し、より効果的な業務運営につなげましょう。
フレシット株式会社では、「RFPを作ろうにも、何から始めればいいかわからない」「要件定義ってどうすればいいの?」とお困りのお客さまのサポートから、要件定義後のシステム開発まで、幅広く対応いたします。
システム開発の外部委託についてご検討の際は、ぜひ一度フレシットにご相談ください。
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監修者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田 順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。