システム開発を依頼する際のリスクとその回避方法を解説
2025-07-31

企業の成長において、ITソリューションやシステムの導入は必要不可欠です。
しかし、システム開発を外部に依頼する際、「本当に予定通りに進むのか」「想定した機能がきちんと実現されるのか」といった不安を感じる方も多いのではないでしょうか。
システム開発の現場では、要件の認識違いやセキュリティ不備など、さまざまなリスクが顕在化し、プロジェクトの成否を左右する事態に発展することがあります。
本コラムでは、システム開発を委託する際に注意すべきリスクの種類と原因、トラブルを未然に防ぐための対策について、事例を交えながら分かりやすく解説します。
システム開発を成功に導きたい企業担当者の方は、ぜひ参考になさってください。
システム開発におけるリスクとは?

システム開発には、計画段階からリリース後の運用に至るまで、さまざまなリスクが内在しています。開発途中での仕様変更、担当者間の認識のズレ、技術的な不具合、進捗遅延、コスト増など、プロジェクトのあらゆるフェーズで問題が発生しやすいのが現実です。
これらのリスクは、一見すると個別のトラブルに見えますが、多くは初期段階での認識不足や準備不足に起因しています。そのため、開発プロセスにおけるリスクをあらかじめ把握し、適切な対策を講じることが、後戻りの少ない安定したプロジェクト運営をするために欠かせないのです。
なぜシステム開発にはリスクがつきものなのか
システム開発にリスクがつきものなのは、目に見えない「要件」や「仕様」を形にする工程であり、そもそも不確実性の高い活動だからです。
システム開発では、発注側と開発側が異なる立場で関与するため、意図や理解にズレが生じやすく、想定外の仕様変更や機能追加が発生することも珍しくありません。また、開発中にビジネス環境や社内体制が変化することもあり、当初想定していなかった対応が求められることもあります。
こうした柔軟性や変更への耐性が求められる一方で、契約内容やスケジュール、費用の制約があるため、リスクの管理が非常に難しいのです。
システム開発におけるリスクの種類

システム開発では、プロジェクトのフェーズに応じて異なる種類のリスクが存在し、放置すると大きなトラブルにつながる可能性があります。
ここでは、代表的なシステム開発のリスクについて、5つの側面から確認していきましょう。
金銭的リスク
システム開発における金銭的リスクは、主に見積もり精度の甘さや要件変更によって発生します。
開発が進むにつれて追加機能が増え、想定以上の工数が必要になると、当初の予算を大幅にオーバーしてしまうケースが少なくありません。
特に、発注側がシステム開発の実務に不慣れな場合、必要な作業範囲を十分に見積もれず、後から高額な費用が発生してしまうことがあります。
技術的リスク
システム開発における技術的リスクとは、使用する技術や開発体制に起因する問題を指します。
例えば、特定の開発者の技術に依存していたり、新しいフレームワークに対する知識不足があったりする場合、プロジェクト全体の進行が滞る恐れがあります。
また、属人化が進むと、担当者の退職や異動がそのままシステム運用停止につながるなど、事業継続性にも影響を及ぼしかねません。
品質リスク
システム開発における品質リスクは、最終的な成果物の完成度や安定性に関わる重要な課題です。
テスト工程が不十分であったり、レビュー体制が形骸化していたりすると、納品後にバグや仕様漏れが多発し、ユーザーに不便や不信感を与える原因になります。
特に、開発スケジュールに余裕がない場合は、テスト工程が軽視されがちで、初歩的なミスや見落としがそのまま本番環境に残ってしまうリスクが高まります。
納期リスク
システム開発における納期リスクは、スケジュール通りに進行しないことによるビジネスへの影響を指します。
初期の工数見積もりが甘い、途中で仕様変更が頻発する、あるいは意思決定が遅れるなどの要因が重なることで、開発が予定より大きく遅延することがあります。
納期遅れによって機会損失が生じたり、他部門の業務に支障をきたしたりする場合もあるため、早い段階でスケジュールの現実性を見極めることが重要です。
セキュリティリスク
システム開発におけるセキュリティリスクは、設計や実装段階における脆弱性によって、情報漏えいやサイバー攻撃が発生するリスクを意味します。
例えば、認証機能の設定ミスやアクセス制御の不備、暗号化処理の欠如などが見落とされたまま運用されると、外部からの不正アクセスにつながりかねません。
特に近年は、個人情報保護やセキュリティ対策が社会的にも厳しく求められているため、開発初期から十分な対策を講じる姿勢が不可欠です。
システム開発のリスクが顕在化した事例

システム開発の現場では、さまざまなリスクが実際に顕在化し、プロジェクトの失敗やサービス停止につながったケースも数多くあります。
ここでは、現実に起こりうる代表的な失敗例を5つご紹介します。
要件があいまいで手戻りが発生
ある企業では、基幹業務システムの再構築を外部に依頼しましたが、初期の段階で要件定義が不十分なまま開発がスタートしました。
その結果、開発途中で「やはりこの機能も必要」「仕様を変更してほしい」といった依頼が相次ぎ、度重なる手戻りが発生することになりました。
最終的に、納期は2か月以上遅れ、追加対応によるコストも大幅に膨らんでしまいました。要件の不明確さが引き起こす典型的なリスク事例です。
ベンダーとの認識のズレで品質不良が発生
ある中堅企業では、業務改善を目的としたWEBシステムを開発会社に依頼しました。 ところが、発注側が「当然あると思っていた機能」が実装されていなかったり、完成品の動作が想定と異なっていたりと、納品時に多くの問題が判明しました。
仕様書に記載されていない内容は対応外と判断され、追加費用の請求が発生する結果となりました。両者の認識ギャップが品質リスクにつながった事例です。
属人化により運用保守・改修が困難に
とあるスタートアップでは、経験豊富なエンジニア1名に依存したかたちで、業務システムの大部分が構築されていました。しかし、その担当者が急遽退職したことで、システムはブラックボックス化。新たな担当者も仕様を理解できなかったため、改修に支障をきたしたのです。保守性や引き継ぎ体制が不十分だったことによって、事業継続に影響する深刻なリスクが表面化した例です。
進捗管理が不十分で納期が大幅に遅延
あるプロジェクトでは、社内での進捗確認が形式的になっており、実際の作業遅延が発覚したのは納期直前になってからでした。
ベンダー側でも報告体制が整っておらず、遅延の兆候を共有する場がなかったため、プロジェクト全体の状況把握が困難になりました。
結果としてリリースは半年以上遅れ、他部署のシステム導入にも影響を与えてしまいました。プロジェクト管理リスクが顕在化した典型的な事例です。
セキュリティ対策不足で情報漏えい
ある小売業のECサイト開発では、コストと納期を優先するあまり、セキュリティ設計が後回しにされていました。
その結果、開発段階で見逃されていた脆弱性がリリース後に狙われ、外部からの攻撃によって顧客情報が流出し、信頼失墜と多額の損害賠償が発生しました。セキュリティリスクの軽視が招いた深刻な結果です。
システム開発のリスクを回避・軽減する方法一覧

システム開発のリスクを最小限に抑えるためには、発注者側も受け身ではなく、主体的にプロジェクトに関わる姿勢が求められます。
以下は、実務において特に重要となるリスクを回避・軽減する方法の一覧です。
- システム開発会社とのコミュニケーションを密におこなう
- リスクを洗い出し、共有する
- 見積もりに基づいた十分な予算を確保する
- 納期は余裕を持って設定する
- 開発手法の特徴を理解しておく
- 契約形態を正しく選ぶ
- プロジェクト管理の仕組みを確認する
- システム検証・テストの体制を整える
- セキュリティ対策を開発初期から検討する
- 継続的な運用保守まで見据えた設計を依頼する
実際のシステム開発では、これらを組み合わせながら柔軟に対応していくことが重要です。
それぞれの詳細について、順に確認していきましょう。
01 システム開発会社とのコミュニケーションを密におこなう
システム開発におけるリスクの多くは、発注側とシステム開発会社との認識のズレから発生します。
そのため、初期の要件定義から納品後の運用まで密なコミュニケーションを取ることが非常に重要です。こうしたやり取りは、誤解や伝達ミスの予防につながるだけでなく、万が一トラブルが発生した場合にも、早期発見・早期解決を可能にします。
02 リスクを洗い出し、共有する
システム開発の初期段階で、想定されるリスクや不確実要素を明確にしておくことで、トラブルの予防につながります。
洗い出したリスクをシステム開発会社と事前に共有しておくことで、両者が同じ前提で動けるようになり、リスク発生時にも冷静に対応できます。
03 見積もりに基づいた十分な予算を確保する
システム開発では、設計やテスト、調整といった工程にも費用がかかります。
各フェーズにかかるコストを見積もりの段階で確認し、ある程度の予備費も含めた予算を確保することが、トラブル時の余裕につながります。
04 納期は余裕を持って設定する
開発途中での手戻りや仕様変更は、システム開発において想定内のリスクと言えます。
そのため、ギリギリの納期ではなく、余裕を持ったスケジュールを組むことが、ビジネスへの影響を最小限に抑えるための重要な対策となります。
05 開発手法の特徴を理解しておく
ウォーターフォールやアジャイルなど、システム開発の手法によって、リスクの種類や発生タイミングも変わってきます。
事前に各手法の特徴を理解しておくことで、期待値とのズレを防ぎ、計画的なプロジェクト運営が可能になります。
06 契約形態を正しく選ぶ
システム開発では、「請負契約」と「準委任契約」のいずれを選ぶかによって、リスクの性質や対応の柔軟性が大きく異なります。
請負契約は納品責任が明確な一方、仕様変更への対応が難しく、準委任契約は柔軟性がある反面、成果物保証がありません。自社の開発体制や目的に合わせて選定することが重要です。
07 プロジェクト管理の仕組みを確認する
システム開発における進捗遅延や情報共有不足といったリスクは、プロジェクト管理体制に起因することが少なくありません。
WBS(作業分解構成図)やタスク管理ツールの有無、定例ミーティングの頻度などを事前に確認することで、管理体制を整えることができます。
08 テスト・レビューの体制を整える
システム開発において、テストやレビューの工程が不十分だと、納品後にバグや不具合が表面化するリスクが高まります。
システム開発を進めるうえでは、テストの実施内容・担当範囲・タイミングなどを事前に合意し、品質トラブルの未然防止につなげることが重要です。
09 セキュリティ対策を開発初期から検討する
システム開発では、認証設計や脆弱性対策が後回しにされることがありますが、これは大きなセキュリティリスクにつながります。
そのため、開発初期からアクセス制御や暗号化設計を盛り込み、運用後のトラブルや情報漏えいを防ぐ意識が欠かせません。
10 継続的な運用保守まで見据えた設計を依頼する
納品後の運用保守を軽視すると、属人化や障害対応の遅れといったリスクが顕在化しやすくなります。
そのため、システム開発を依頼する際は、ドキュメント整備・担当者の引き継ぎ・運用保守体制の有無まで視野に入れておくと、長期的に安心して運用できます。
まとめ
今回は、システム開発における代表的なリスクとその回避策について、具体的な事例や実践的な対策を交えてご紹介しました。
システム開発を成功させるには、「必要な機能とその使い方」の目的を明確にすることが出発点となります。誰のために、どのような課題を解決するのかを具体的に整理したうえで、要件定義・設計・実装・テスト・運用保守までを一貫して管理する姿勢が求められます。
特にプロジェクト初期の段階で、技術的・業務的なリスクを洗い出し、発注者とシステム開発会社で情報をすり合わせておくことが、後のトラブルや認識のズレを防ぎます。
加えて、スケジュールや予算の現実性を見極めながら、定期的なレビューやフィードバックの仕組みを取り入れることで、品質の維持と円滑な進行を両立できます。
今回の内容を参考に、自社のプロジェクトに潜む課題を見極め、リスクを見える化して「成功するシステム開発」を実現させましょう。
監修者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田 順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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