【住商の鋼管取引DXに学ぶ】「あとから調整できる設計」が競争力になる──仕様・数量を動的に変えるためのシステム設計とは
「あとから変えられる」かで、利益は決まる
2026-04-16

資源開発の現場では、計画通りに進まないことが前提です。地質の違いや外部環境の変化により、必要な資材の仕様や数量は何度も見直されます。このような状況において、最初に決めた内容を前提に固定されたシステムでは、現場に追従できません。
一方で、生産計画や進捗を共有しながら、発注内容を柔軟に見直せる仕組みがあれば、在庫や調達の無駄を抑えつつ、供給の安定性も高めることができます。
本コラムでは、「あとから調整できる設計」がなぜ競争力につながるのか、そしてそれを実現するためにどのようなシステム設計が求められるのかを、実務の視点から解説します。
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目次
【記事要約】住友商事、鋼管取引をDXで高度化し生産計画連携とAI活用による最適供給へ
住友商事は鋼管取引の高度化に向け、顧客である石油・ガス開発企業と生産・採掘計画を常時共有する仕組みを構築する。これにより開発状況を踏まえ、鋼管の仕様や発注量を柔軟に調整できる体制へ転換する。また、在庫や市況を踏まえた管理や明細書の自動作成などのDX機能は他商材への展開も視野に入れ、サービス化や外販も検討する。さらに業界全体でもデジタル化は進み、鋼材証明書の電子化により管理や検索性を高める動きが広がっている。これらの取り組みは、在庫最適化と供給安定化を両立する新たな競争軸となりつつある。
出典:日本経済新聞「住商の鋼管取引、DXで適正在庫 AIで仕様算出など提案型追求」2026年3月18日付朝刊
ポイントをひとことで
多くのシステムは「確定した前提」を扱うことに最適化されていますが、実際の業務は未確定な情報の連続です。重要なのは、正しいデータを持つことではなく、変わり続ける前提をどう扱えるかです。調整を人の努力に依存するのではなく、変更が自然に反映される仕組みに落とし込めるかが投資判断の分岐点になります。完成度の高さよりも、変化への追従力こそが、長期的な業務効率と意思決定の質を左右します。
「最初に決める前提」が業務を硬直化させる
多くの業務システムは、「要件を確定してから作る」という前提で設計されます。しかし、実際の業務では要件は固定されません。特に調達や生産に関わる領域では、計画の変更が常に発生します。
例えば、以下のようなケースは珍しくありません。
・需要予測の変動による発注数量の見直し
・現場条件の変化による仕様変更
・納期遅延に伴う代替品の検討
・在庫状況に応じた優先順位の変更
こうした変更が発生するたびに、手作業で調整したり、Excelで補完したりしていては、業務は属人化し、判断のスピードも落ちます。問題の本質は、「変更が起きること」ではなく、「変更を前提にしていない設計」にあります。
なぜ「あとから調整できる設計」が必要なのか
「あとから調整できる設計」とは、単に入力内容を変更できるという意味ではありません。業務の流れそのものが、変化に対応できるように設計されている状態を指します。
重要なのは、次の3点です。
・計画や条件が変わる前提でデータを扱うこと
・変更が他の業務に与える影響を即座に反映できること
・変更の履歴や意図が追えること
例えば、生産計画と発注データが連動していれば、計画変更と同時に発注内容も見直されます。また、在庫情報と連携していれば、新規発注ではなく既存在庫の活用という選択肢も自然に提示されます。このように、「調整」を個人の判断に委ねるのではなく、仕組みとして支えることが重要です。
生産計画の共有がもたらす変化
生産計画や進捗情報をリアルタイムに共有できるようになると、業務の進め方は大きく変わります。
従来は、以下のような流れが一般的でした。
・計画は各社で分断されている
・変更は後追いで伝達される
・結果として過剰在庫や欠品が発生する
これに対して、計画を共有することで、
・変更の兆しを早期に把握できる
・発注内容を事前に見直せる
・在庫の過不足を抑えられる
といった効果が生まれます。
ここで重要なのは、「情報を共有すること」そのものではなく、「共有された情報をもとに、どのように業務を動かすか」です。そのためには、計画・在庫・発注が分断されていないシステムが必要になります。
動的に仕様・数量を変えるための設計ポイント
実際に「あとから調整できる設計」を実現するためには、いくつかの重要な設計ポイントがあります。
条件ベースで仕様を決定する
仕様を固定値として持つのではなく、温度・圧力・用途などの条件から導き出す形にします。これにより、条件が変われば仕様も自動的に見直されます。
データ同士を連動させる
生産計画、在庫、発注を個別に管理するのではなく、相互に参照できる状態にします。どれか一つが変われば、他も影響を受けるように設計することが重要です。
「確定」と「暫定」を分ける
すべてを確定前提で扱うと、変更のたびに手戻りが発生します。暫定の状態を許容し、段階的に確定させる設計が必要です。
履歴を前提にする
変更前後の差分や意思決定の背景を残すことで、後からの検証や改善が可能になります。
人の判断を補助する仕組みを組み込む
過去のデータやルールをもとに、最適な選択肢を提示することで、判断の質とスピードを高めます。
パッケージでは実現しにくい理由
このような設計は、一般的なパッケージ製品では対応が難しいケースが多くあります。理由は明確で、業務ごとの細かな運用や判断基準が企業ごとに異なるためです。特に、
・どのタイミングで仕様を見直すか
・どの条件を優先するか
・どこまで自動化し、どこを人が判断するか
といった部分は、標準化しづらい領域です。
そのため、既存の機能に業務を合わせるのではなく、業務に合わせてシステムを設計する必要があります。ここにフルスクラッチ開発の意義があります。
【関連記事】
パッケージ開発とスクラッチ開発の違いとは?それぞれの特徴と適切な選び方について解説
「調整できること」が利益を生む
「あとから調整できる設計」は、単なる利便性の話ではありません。直接的に利益に影響します。
・過剰在庫の削減によるコスト低減
・欠品防止による機会損失の回避
・判断スピード向上によるリードタイム短縮
これらはすべて、日々の小さな調整の積み重ねによって実現されます。逆に言えば、調整できない仕組みは、変化に対応できず、結果としてコスト増や機会損失を招きます。
まとめ
業務の現場では、計画や条件が変わることは避けられません。その変化を前提とせずに設計されたシステムは、運用の中で無理が生じ、やがて形骸化していきます。
これから求められるのは、「最初に決めること」ではなく、「あとから調整できること」を前提にした設計です。生産計画の共有やデータ連携を通じて、仕様や数量を動的に見直せる仕組みを持つことが、業務効率だけでなく競争力にも直結します。システムは完成した時点がゴールではありません。変化し続ける業務に追従できるかどうかが、その価値を決めます。
こうした「あとから調整できる設計」は、単に機能を追加するだけでは実現できません。業務のどのタイミングで何が変わりうるのか、どこまでを自動化し、どこを人が判断すべきかまで踏まえて設計する必要があります。
当社フレシット株式会社では、既存のやり方をそのままシステムに置き換えるのではなく、業務の流れや意思決定のポイントから整理し、「変化に対応できる仕組み」としてシステムを設計しています。生産計画や在庫、発注といった分断されがちな情報をつなぎ、状況に応じて最適な判断ができる環境を構築できる点が特長です。
また、要件が固まりきっていない段階から伴走し、運用を見据えながら段階的に形にしていくことで、「使いながら調整できる」システムづくりを実現しています。パッケージでは対応しきれない、自社の業務にフィットした仕組みを検討されている場合は、ぜひ一度ご相談ください。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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