【都立病院の電子カルテ統一から見える課題】なぜフルスクラッチ開発でも“使われない機能”が生まれるのか?
使われない機能に、コストを払っていませんか
2026-05-06

東京都立病院機構が進める電子カルテの統一では、各病院で積み重ねてきた個別カスタマイズの見直しが行われています。その背景には、利便性向上のために追加された機能の一部が実際には使われていないという現実がありました。こうした状況は医療機関に限らず、多くのシステム開発の現場で起きています。特にフルスクラッチ開発のように自由度が高い場合、要望をそのまま実装することで、結果的に使われない機能が生まれてしまうケースは少なくありません。
本コラムでは、なぜそのような事態が起きるのか、そして本当に必要な要件を見極めるための考え方について解説します。
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目次
【記事要約】都立病院機構、電子カルテ統一で「過剰カスタマイズ」からの脱却へ
東京都立病院機構は、病院ごとに最適化してきた電子カルテの個別カスタマイズが、結果的にコスト増大と運用の複雑化を招いたと判断し、全14病院でのシステム統一に踏み切った。現場ニーズに応じて機能追加を重ねたことで利便性は向上したが、保守費や改修負担が膨らみ、経営を圧迫していた。さらに、実装された機能のうち17%が未使用であることも判明し、過剰な開発が非効率を生んでいた実態が浮き彫りとなった。標準パッケージへの移行により、業務の見直しとコスト削減を両立し、持続可能な医療DXを目指す。
出典:日本経済新聞「都立病院DX最前線(上)脱赤字へ電子カルテ統一『最強カスタマイズ』解消」2026年4月7日付朝刊
ポイントをひとことで
フルスクラッチ開発において重要なのは、実現可能性ではなく投資対効果の見極めです。現場の要望は価値のヒントにはなりますが、そのまま積み上げると優先順位が曖昧になり、使われない機能が生まれやすくなります。判断の軸は「誰がどれだけ使うのか」と「業務全体にどれだけ影響するのか」に置くべきです。すべてを満たすのではなく、使われ続ける部分に集中することが、結果としてコストと価値のバランスを最適化します。
現場ニーズを反映したはずなのに使われない理由
システム開発において、「現場の声を反映すること」は非常に重要です。しかし、その重要性が強調されるあまり、現場から出てきた要望をそのまま実装してしまうケースが見受けられます。
一見すると、これは合理的な判断に思えます。実際に業務を行っている担当者の声を取り入れることで、使いやすいシステムができると考えるのは自然なことです。しかし、ここに大きな落とし穴があります。
現場の要望は、その時点の業務や環境に強く依存しています。つまり、「今のやり方を前提にした改善案」であることが多く、本質的な課題の解決にはつながらない場合があります。その結果、導入後に業務の進め方が変わったり、組織の体制が変化したりすると、せっかく実装した機能が使われなくなることがあります。
また、複数の部署や担当者から要望を集めると、それぞれの最適解が衝突し、結果として複雑で使いにくいシステムになることもあります。こうして追加された機能の一部は、利用されないまま残り続けることになります。
フルスクラッチ開発が抱える特有のリスク
フルスクラッチ開発は、業務に最適化されたシステムを構築できる点が大きな魅力です。しかしその一方で、「どこまででも作れてしまう」という特性がリスクにもなります。
パッケージ製品であれば、あらかじめ用意された機能の範囲内で検討が進むため、自然と取捨選択が行われます。一方でフルスクラッチの場合、「実現できるなら入れておこう」という判断が積み重なりやすくなります。
この結果として起きるのが、機能の肥大化です。機能が増えるほど開発コストや保守コストは上昇し、改修時の影響範囲も広がります。さらに、ユーザー側にとっても操作が複雑になり、結果的に使われない機能が増えていきます。
つまり、自由度の高さはメリットであると同時に、「意思決定の質」が問われる開発手法でもあるのです。
「要望」と「要件」は別物である
使われない機能を生まないためには、「要望」と「要件」を明確に区別する必要があります。
要望とは、現場から上がってくる「こうしたい」「これがあれば便利」という声です。一方で要件とは、「どのような課題を解決するために、何を実現すべきか」を定義したものです。
多くのプロジェクトで問題になるのは、要望をそのまま要件として扱ってしまうことです。しかし、要望の背景には必ず目的や課題があります。例えば「この画面にボタンを追加してほしい」という要望があった場合、その背景には「特定の作業に時間がかかっている」「操作が分かりにくい」といった問題が存在している可能性があります。
この背景を深掘りせずに機能を追加してしまうと、根本的な課題が解決されないまま、機能だけが増えていくことになります。
重要なのは、「なぜその要望が出てきたのか」を整理し、本当に解決すべき課題を見極めることです。
本当に必要な機能を見極めるための考え方
では、どのようにすれば不要な機能を排除し、本当に必要な要件だけを定義できるのでしょうか。
まず重要なのは、「業務の目的から逆算する」ことです。システムはあくまで手段であり、目的は業務の効率化や価値の向上にあります。そのため、個々の要望ではなく、業務全体のゴールを起点に考える必要があります。
次に、「優先順位を明確にする」ことも欠かせません。すべての要望を同時に実現しようとすると、コストが膨らむだけでなく、結果として中途半端なシステムになります。どの機能が業務にとって本当に重要なのかを整理し、段階的に導入していく判断が求められます。
さらに、「使われるかどうか」を基準に判断することも有効です。実装前の段階で、「この機能は誰がどの頻度で使うのか」「使われなかった場合にどのような影響があるのか」を具体的に検討することで、不要な機能の追加を防ぐことができます。
システム開発会社に求められる役割
このような要件整理を適切に行うためには、システム開発会社の関わり方も重要になります。
単に要望を受けて開発するだけではなく、背景にある課題を整理し、本当に必要な要件へと落とし込む役割が求められます。場合によっては、「その機能は不要です」と提案することも必要です。
また、業務の進め方自体を見直す視点も欠かせません。システムに業務を合わせるのか、業務にシステムを合わせるのか。そのバランスを適切に判断することで、無駄なカスタマイズを防ぐことができます。
フルスクラッチ開発を成功させるためには、技術力だけでなく、業務理解や要件整理の力が不可欠です。
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まとめ
フルスクラッチ開発において使われない機能が生まれる原因は、現場の要望をそのまま実装してしまうことにあります。要望の背景にある課題を整理せずに機能を追加すると、結果的に利用されない機能が増え、コストや運用負担が膨らみます。本当に必要なシステムを実現するためには、業務の目的から逆算し、要件を見極めることが重要です。自由度の高い開発だからこそ、何を作らないかを判断することが、成功を左右するポイントになります。
さいごに
フルスクラッチ開発は、自由度が高いからこそ成果にも差が出ます。現場の要望をそのまま積み上げるだけでは、使われない機能や過剰なコストにつながる可能性があります。本当に価値のあるシステムを実現するためには、要望の背景にある課題を整理し、必要なものとそうでないものを見極めることが欠かせません。
当社フレシット株式会社では、単にご要望を形にするのではなく、その背景にある業務や目的を丁寧に整理しながら、最適な形をご提案しています。初期の検討段階から伴走し、要件の整理・優先順位の設計・段階的な開発まで一貫して支援することで、過剰な機能追加を防ぎ、実際に使われ続けるシステムの実現を目指しています。
「何を作るか」だけでなく「何を作らないか」まで含めて判断したいとお考えの際は、ぜひ一度ご相談ください。貴社の事業にとって本当に意味のあるシステム開発を、共に検討させていただきます。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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