【都立病院の異変共有DXから考える】システムは業務を管理するだけではない──“忖度”を減らす設計が組織を変える
“気づいていたのに共有されなかった”を減らせるか
2026-05-12

東京都立広尾病院で導入された、患者の異変をリアルタイムで共有するシステムが注目を集めました。特に印象的なのは、「看護師が異変を感じても、医師へ伝えるべきか迷ってしまうことがある」という現場の課題に対し、システム側で情報共有を後押ししていた点です。
多くの業務システムでは、「入力されること」「報告されること」が前提になっています。しかし実際の現場では、遠慮、心理的負担、経験差、忙しさなどによって、重要な情報ほど埋もれてしまうケースがあります。
これは医療業界だけの話ではありません。
製造業、物流、建設業、コールセンター、情シス部門など、さまざまな現場で「本当は気づいていたが共有されなかった」という問題は起きています。
本コラムでは、都立病院の事例をもとに、“忖度を減らすシステム設計”という視点から、これからの業務システム開発で重要になる考え方を解説します。
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目次
【記事要約】都立広尾病院の医療DX、現場の“迷い”を減らし異変共有を加速
都立広尾病院では、電子カルテやバイタルデータを連携する診療支援システム「ハイパー」を活用し、患者の異変をリアルタイムで共有している。特徴的なのは、看護師が「伝えるべきか迷う」ような微細な変化もシステム側が即時通知し、現場の忖度を減らしている点だ。通知タイミングは毎月の症例検討会で見直されており、運用を継続的に改善している。一方、この仕組みは現状では広尾病院限定で、他病院への展開は進んでいない。都病院協会からは民間病院への共有を望む声もあり、個別病院の知見を東京全体の医療DXへ広げられるかが課題となっている。
出典:日本経済新聞「都立病院 DX最前線(中) 患者の異変、即共有し救命 コードブルー発生を半減」2026年4月8日付朝刊
ポイントをひとことで
業務システムの価値は、単に情報を集めることではなく、「現場が迷わず動ける状態」を作れるかで決まります。多くの現場では、問題そのものよりも、「この程度で共有してよいのか」という遠慮や判断の迷いによって初動が遅れます。だからこそ、入力や報告を人の善意や経験だけに頼るのではなく、違和感を自然に共有しやすくする設計が重要になります。システム投資で本当に差が出るのは、機能数ではなく、現場の心理的なハードルまで踏み込めているかどうかです。
システムは「業務管理ツール」として作られすぎている
多くの業務システムは、「情報を管理すること」を主目的として作られています。
例えば、
- 案件管理
- 顧客管理
- 在庫管理
- 日報管理
- 問い合わせ管理
- インシデント管理
などです。
もちろん管理そのものは重要です。しかし、現場では「管理できているように見えるだけ」の状態も少なくありません。
その理由は、システム上に情報が存在していても、“本当に共有されるべき情報”が上がってきていないからです。
例えば製造現場では、
- 「なんとなく設備音がいつもと違う」
- 「不良率が微妙に増えている気がする」
- 「新人が困っていそうだった」
といった定性的な違和感があります。しかし、それらは数値化されていないため、共有されないまま終わることがあります。
物流現場では、
- 「この配送ルートは最近遅れやすい」
- 「この荷主案件は現場負担が大きい」
という感覚的な情報が埋もれます。
情シス部門でも、
- 「この運用は属人化していて危ない」
- 「問い合わせが増え始めている」
- 「現場が使いづらそうにしている」
といった兆候が、正式な報告にはならないケースがあります。つまり、問題は「データがない」ことではなく、“現場が迷わず共有できる状態になっていない”ことなのです。
「報告される前提」のシステムには限界がある
業務システム開発では、「必要な情報は現場が入力する」という前提で設計されることが多くあります。しかし、現実には人はそこまで合理的には動きません。
例えば、
- 間違っていたらどうしよう
- 大した問題ではないかもしれない
- 忙しそうだから後にしよう
- また細かいと言われそう
- 前回報告した時は何も起きなかった
こうした感情は、どの現場にも存在します。その結果、本来早めに共有すべき情報が後回しになり、問題が大きくなってから発覚します。
これは、システムの機能不足だけの問題ではありません。
「人間がどう判断し、どう迷うか」まで含めて設計されていないことが原因です。
都立広尾病院の事例が示唆的なのは、システムが“情報を管理する”だけではなく、“共有を促進する役割”を担っていた点です。しかも重要なのは、「AIがすごい」という話ではありません。現場で起きる“ためらい”を前提にしていたことです。
この視点は、多くの業務システムで見落とされがちです。
本当に必要なのは「異常検知」より「共有しやすさ」
近年はAIやデータ分析の話題が増え、「異常検知」という言葉もよく使われています。しかし実務では、検知精度だけを高めても現場が改善するとは限りません。
例えば、
- 通知が多すぎて誰も見なくなる
- 誰に伝えるべきかわからない
- 優先順位が判断できない
- 確認フローが複雑
- 通知後の運用が曖昧
といった問題が起きます。
つまり、「検知」だけでは業務は回りません。
重要なのは、
- 誰が
- どのタイミングで
- どの情報を
- どう受け取り
- どう行動するか
まで含めて考えることです。
都立広尾病院のシステムでは、毎月症例検討会を開き、通知タイミングを見直しているとされています。
これは非常に重要なポイントです。業務は固定ではありません。
現場の状況、人員、経験値、繁忙度によって最適解は変わります。
つまり、システムも「作って終わり」ではなく、運用しながら改善し続ける必要があります。ここに、フルスクラッチ開発の価値があります。既製品では対応しきれない現場ごとの運用や判断基準を、実際の業務に合わせて調整できるからです。
「入力されない」を前提に設計する重要性
多くのシステム開発では、「何を入力するか」に意識が向きます。
しかし、実際には「入力されない理由」を考えることのほうが重要です。
例えば営業管理システムでも、
- 商談メモが入力されない
- 失注理由が雑になる
- 顧客温度感が更新されない
ということはよくあります。
これは単なる“現場の怠慢”ではありません。
- 入力負荷が高い
- 意味を感じない
- フィードバックがない
- 活用されていない
- 曖昧な情報を書きづらい
といった理由があります。
そのため、これからのシステム開発では、「どう入力させるか」だけでなく、「どうすれば自然に共有されるか」を考える必要があります。
例えば、
- 自動取得できる情報を増やす
- 選択式で入力負荷を減らす
- 曖昧な違和感でも残せる
- 関係者へ自動通知する
- 判断を属人化させない
といった設計が重要になります。
業務改善とは、「正しい入力を強制すること」ではありません。
現場が自然に動ける状態を作ることです。
フルスクラッチ開発が必要になる理由
こうした課題に向き合うと、既製品だけでは対応が難しい場面が増えてきます。
なぜなら、現場ごとに、
- 判断基準
- 情報共有文化
- 承認フロー
- 緊急度
- 部門間連携
が異なるからです。
例えば同じ「異常報告」でも、
- どの段階で通知するべきか
- 誰に通知するべきか
- どこまで自動化するべきか
は企業ごとに違います。
ここを現場に合わせずに導入すると、「システムはあるが使われない」という状態になりやすくなります。特に、属人的な業務が多い企業ほど、単純なパッケージ導入では運用にズレが出やすくなります。
だからこそ、現場ヒアリングを通じて、
- なぜ共有されないのか
- どこで迷いが発生するのか
- 何が心理的負担なのか
まで整理しながら設計することが重要になります。
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まとめ
システム開発というと、「効率化」や「管理強化」が語られがちです。
しかし実際の現場では、“情報が共有されない”ことそのものが大きなリスクになっています。
そして、その背景には単なる機能不足ではなく、
- 遠慮
- 判断の迷い
- 属人的な感覚
- 忙しさ
- 経験差
といった、人間側の事情があります。
都立広尾病院の事例が示しているのは、システムとは単なる管理ツールではなく、「現場が動きやすくなる環境」を作るものだということです。
これからの業務システム開発では、「何を管理するか」だけではなく、「どうすれば自然に共有されるか」という視点が、ますます重要になっていくのではないでしょうか。
さいごに
業務システムの導入がうまくいかない原因は、「機能が足りない」ことだけではありません。
実際には、
- 現場が入力しづらい
- 情報共有に迷いが生まれる
- 部門ごとに判断基準が違う
- 運用が人に依存している
といった、“業務のリアル”とシステムのズレが問題になるケースが少なくありません。
だからこそ、単純にパッケージを当てはめるのではなく、現場の流れや判断のしかたまで踏み込んで設計することが重要になります。
当社フレシット株式会社では、こうした現場ごとの課題整理から入り、フルスクラッチ(オーダーメイド)で業務システムを開発しています。
「入力される前提」ではなく、「なぜ入力されないのか」「なぜ共有が止まるのか」まで含めて整理しながら、実際の運用に合わせたシステムをご提案しています。
また、新規開発だけでなく、
- 既存システムのリプレイス
- 属人化した業務の整理
- 複数システムの連携
- 現場運用に合わせた改善
などにも対応しています。
「システムを導入したのに定着しない」
「現場と管理側で認識がズレている」
「既製品では業務に合わない」
そのようなお悩みがある場合は、一度、当社フレシット株式会社へご相談ください。
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著者プロフィール
フレシット株式会社 代表取締役 増田順一
柔軟な発想でシステム開発を通して、お客さまのビジネスを大きく前進させていくパートナー。さまざまな業界・業種・企業規模のお客さまの業務システムからWEBサービスまで、多岐にわたるシステムの開発を手がける。一からのシステム開発だけでは無く、炎上案件や引継ぎ案件の経験も豊富。システム開発の最後の砦、殿(しんがり)。システム開発の敗戦処理のエキスパート。

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